第1章

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   **** 「伊坂君、ゴールデンウィークはまだ予定ないって」と、楢崎に教えた。 「じゃあ、遊びに行こう!」  小学校の同窓会は流石に諦めたらしい楢崎が提案した。 「私も行って良い……?」と、朋美ちゃんにしては珍しく、ためらいがちに言った。  ためらうのももっともだ。伊坂君とは初対面なのだから。  しかし、なんとなく、そこに対する緊張とは違うものを感じた。なにかしらの、決意のようなものを。  朋美ちゃんのポニーテールは、楢崎がいる方向の真逆を向いて、震えているようにも見えた。 「オッケー、四人で行こう」と、楢崎は簡単に応じた。  その日の夜、朋美ちゃんからメールが届いた。 [沙世ちゃんって、伊坂君のことが好きなんだよね]  流石朋美ちゃん。はっきりとものを言う。  私自身ですら、今朝まで気づいてなかったんだけど……。 [だって沙世ちゃん鈍感だもん]  どうかな? 自覚はなかった。 [私が楢崎君を好きだってことにも気付いてないでしょ]  ええええ! これには驚きすぎて、数分間フリーズしてしまった。 [ゴールデンウィーク楽しみだね。ダブルデートってことになるのかな。おやすみなさい]  頭が混乱して、その日は全然眠れなかった……。  ダブルデート前夜も、全然眠れなかった。  ここ数日、私の生活サイクルはむちゃくちゃだ。  そして朝。やばい、遅刻だ、寝坊した。  騒ぎ続ける胸の中とは裏腹に、家の中はとても静かだった。不思議なくらいに。  その静寂に、気持ちが落ち着かなくて、つい「行ってきます」と言いそうになった。  反抗期中だから言わない。危なかった。  いつも通り黙って家を出る。その時、微かに、母の「行ってらっしゃい」が聞こえた。  平常心、平常心……。  とりあえず、みんな、遅刻ごめんなさい。
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