第1章

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   ****  右肩に脱臼癖がついてしまった。  するとどうだろう。バスケットゴールが高く遠くに見えるようになってしまった。  バスケを始めたての、小学生の頃にも感じていたように。  あの頃から努力して、運よく背も伸びて、コートを走り回るしか出来なかった俺が、スリーポイントも入るようになった。ダンクも出来るようになった。  そうやって少しずつ、ゴールリングに近付いていく。そんな風に思っていたんだけどな……。  肩が一回外れるごとに、リングに巻きついた紐が一本ずつ切れていくような感覚がした。  そうして、全ての紐が切れた時、俺はバスケ部を辞めた。  ゴールネットが無くたって、バスケットは出来る。  ただ、シュートが入ったかどうかが、少し分かりにくくなるだけ、曖昧になるだけだ。  けれど、俺のゴールネットが無くなってしまった時は、少し違った。もっともっと、色々なものが曖昧になってしまった。 「生きる意味」とか大層なことまでは言えないが、それでも、少なくとも、俺の学生生活は大変に曖昧になってしまった。  とりわけ、通学である。  朝練のために、毎朝、始発電車に乗っていたのだが、ちょうど良い登校時間っていつだ? 朝礼の何分前に着けば良い?  とりあえず、起床時間を三時間くらい遅くしてみた。  それで、一度遅刻した。ダメだ。  起床時間を遅らせるのは二時間だけにして、在来線の駅まで自転車だったのを徒歩にしてみた。  結局、駅に着いたのは七時くらいだった。  これじゃあ学校に早く着きすぎるかも、なんて考えながら、サラリーマン達をかき分けて、プラットホームを進んでいく。  見知った顔があった。待合席の端っこに、ちょこんと座っている女の子がいた。
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