第1章

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 そこで魔がさしたというか、なんというか……。 「知り合い見つけ」  完全にナンパだ。  いやいや、違う違う。小学校の頃からの知り合いだし、大丈夫、大丈夫と、繰り返し自分に言い訳しても、心臓の鼓動は早くなるばかりだった。  二言三言交わしたところで、彼女はマフラーに顔をうずめてしまった。  四月とはいえ、まだ寒さの残る時期だ。暖を取るためだろう。  そう思ってみても、迷惑になってしまったかな、とか、会話が退屈だったかな、とか、色々と考えてしまう。  もしかして、何でもない風に言ったけど、「部活」って言葉を口にした時、少し深刻な表情になっていたのかな、重たい話に聞こえてしまったのかな?  髪の毛は小学校の頃と違って、茶色に染色されていた。  それでも髪が痛んでいる様子もなく、艶やかな光沢があった。  マフラーに入れず、たわんだ髪に、光の輪っかが出来ている。  バスケットゴールのリングみたいだと、思ってしまった。  女の子に対して、なんて失礼な比喩表現だろう。  明日からまた、電車の時間を変えよう……。  そんな考えを見透かしたかのように、マフラーの中から曖昧な声が出てきた。 「――これからは一緒だね」と。  心の中で「これから」という言葉が木霊する。  学生生活に確かな輪郭が出来、何かが結ばれていくような感覚がした。  今立っている足元が固まって、心がしっかりと支えられていく。  ここから、少しずつ進んでいこう。目指すゴールはまだまだ曖昧なままだけど――。 「おう、よろしく!」  ボールがネットの中を通過する時の摩擦音が、一瞬だけ聞こえた気がした。  それは電車の扉が開く時の、シューっという不思議な音のせいだった。
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