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そこで魔がさしたというか、なんというか……。
「知り合い見つけ」
完全にナンパだ。
いやいや、違う違う。小学校の頃からの知り合いだし、大丈夫、大丈夫と、繰り返し自分に言い訳しても、心臓の鼓動は早くなるばかりだった。
二言三言交わしたところで、彼女はマフラーに顔をうずめてしまった。
四月とはいえ、まだ寒さの残る時期だ。暖を取るためだろう。
そう思ってみても、迷惑になってしまったかな、とか、会話が退屈だったかな、とか、色々と考えてしまう。
もしかして、何でもない風に言ったけど、「部活」って言葉を口にした時、少し深刻な表情になっていたのかな、重たい話に聞こえてしまったのかな?
髪の毛は小学校の頃と違って、茶色に染色されていた。
それでも髪が痛んでいる様子もなく、艶やかな光沢があった。
マフラーに入れず、たわんだ髪に、光の輪っかが出来ている。
バスケットゴールのリングみたいだと、思ってしまった。
女の子に対して、なんて失礼な比喩表現だろう。
明日からまた、電車の時間を変えよう……。
そんな考えを見透かしたかのように、マフラーの中から曖昧な声が出てきた。
「――これからは一緒だね」と。
心の中で「これから」という言葉が木霊する。
学生生活に確かな輪郭が出来、何かが結ばれていくような感覚がした。
今立っている足元が固まって、心がしっかりと支えられていく。
ここから、少しずつ進んでいこう。目指すゴールはまだまだ曖昧なままだけど――。
「おう、よろしく!」
ボールがネットの中を通過する時の摩擦音が、一瞬だけ聞こえた気がした。
それは電車の扉が開く時の、シューっという不思議な音のせいだった。
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