第1章

13/21

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 ****  普段は黒の髪ゴムで結っておしまいだが、今日はその上から桃色のシュシュを付けてオシャレをした。  ダブルデート当日の朝である。  初対面の伊坂君なる人と会うのは少し緊張する。 「初めまして、林朋美です。よろしくお願いします」  鏡の前で、声に出して挨拶の練習をしてみた。少し固いか。でも良しとしよう。  今日は初めて楢崎君と遊びに行く日。そのことの方が私を震わせる。  私は楢崎君のことが好きだ。  自由人な彼のことが好きだ。  高校入学当初のこと。彼は、緊張した面持ちの他の生徒達と違って、ある休み時間は男女問わず話しかけたり、またある休み時間は独りでどこかへ行ってしまったり、自由気ままだった。  私はというと、周りの席の人達に話しかけられはしたが、もともと上辺ばかりの話が苦手で、続かなかった。集団に属することに向いていないようだ。独りで読書をしたりして過ごしていた。  その時、沙世ちゃんにも話しかけられた。彼女も楢崎君と同じく、男女の別なく周りの人に話しかけていた。  その頃は社交的なコだった。  しかし、一ヶ月もすると彼女は髪を茶色に染め、少し周りと距離を取るようになった。どうやらその頃に反抗期に突入したようだ。  そんな沙世ちゃんにも、楢崎君は変わらず話しかけた。 「なんだよ、その髪の毛」 「地毛」と、沙世ちゃんは無愛想に応えた。 「嘘吐け。土日で色が変わる地毛があるもんかよ」と、言って楢崎君は笑い飛ばした。そして、それ以上はそのことに触れずに、会話をしていた。  その場面が妙に私の心を打った。なんて自由な人なんだろう。それでいて、無遠慮なことはしない。  初めて見るタイプの人だった。  周りの生徒や教師が、急に態度が変わった沙世ちゃんを遠巻きに見る中、そこへ入っていき、寄り添う。そこに優しさを感じた。  そして、好きになった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加