第1章

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 すぐに話しかけた。 「同じ中学の人がいないの。私も二人の中に入れて!」と、勢い勇んで言った。  二人とも、少しの間も開けずに「どうぞどうぞ」と迎え入れてくれた。  二人とも、そういう人間性なのだ。男女だとか、縄張りだとか、そういうものに縛られない。  そして、その後も相変わらず、楢崎君はあちこちに飛び回り、沙世ちゃんはこちらから話しかけない限り独りでいた。  そこで楢崎君には、私から話しかけるようにして、一緒にいる時間を増やすことにした。  沙世ちゃんには、自然に心を開いてくれるのを待った。そうして彼女は、私と楢崎君を通して、少しずつ学校に馴染んでいった。  そんなこんなで今に至るわけだが、沙世ちゃんはそのことをすっかり忘れてしまっていて「入学した頃って私、緊張しててさ、ずっと楢崎と朋美ちゃんの三人でいたよね」なんて言っていた。本人から見たら確かにそうだったのかもしれないが、その実、彼女自身が孤独を望んでいて、不完全にその望みが叶えられた結果だったのだ。  今では、沙世ちゃんのことは親友だと思っている。  そして、私は楢崎君のことが好きで、沙世ちゃんも私と同じだ。  沙世ちゃんも、楢崎君のことが好きだ。恋とは違うのかもしれないが、見ていればわかる。友情とは違う、特別な感情を抱いている。  だから、つまりは三角関係なのだ、私たち。  そんな曖昧な関係が私にはむず痒く、いっそ楢崎君に告白してしまおうと何度も思った。しかし、告白するぞと決めた時に限って、私自身が他の男子に告白されてしまい、うやむやになるのだった。  実に四度である。このうち沙世ちゃんが気付いているのは二度くらいかな。  沙世ちゃんは鈍感だから、自分が三角関係の挟間にいることにも気付いていないだろう。  その鈍感が高じて、最近大変なことが起きた。  沙世ちゃんが恋をしたのだ。伊坂君なる人に。  好きな人がいるにも拘らず、そのことに自分が気付かず、ひいては別の人に恋をしてしまう。なんと不思議な現象だろう。  沙世ちゃん、このままじゃ二股だよ?  さて、今日はこの現象を見極める日でもある。  もしかしたら、一年間、こう着状態だった三角関係が崩れる日にもなるかもしれない。特別な日になるかもしれない。  というのに沙世ちゃんてば――。 [ごめん! 遅刻する!]と、メールが届いた。
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