第1章

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 ****  俺は「自由」を信奉している。  なぜか、とかはまぁ、どうでも良い。簡単に言うと、子供の頃から音楽とか文学とか絵画とか、芸術がとにかく好きで、その表現の寛容さに感化されただけ、という薄っぺらい理由である。  だがしかし、社会生活を送る上で「自由」には制限がかかる。他人に迷惑をかけてはいけないということだ。  待ち合わせに遅刻など、もってのほかである。 「ペナルティでピザおごりな」 「げげんちょ」と、沙世は悲鳴を上げた。  沙世は四十分も遅刻した。その頃には、初対面の伊坂と朋美の自己紹介も済んでいて、ため口で話せるほど打ち解けていた。  本日はファミレスでのお食事会がメインだ。  伊坂とは久しぶりに会うから積る話もあるし、朋美とじっくり長い時間遊ぶのも初めてだから「ひとまずは」ということだ。沙世とはまぁ、長い付き合いだし、どうでも良い。  待ち合わせ場所の駅構内から、最寄りのファミレスへ。  十二時。真昼だ。店内は込み合っていた。だから早めの待ち合わせ時間にしたのに、沙世のヤツめ。  少し待って、じきに奥のボックス席に通してもらった。  とりあえずジュースで乾杯。俺と朋美はパスタを、伊坂はグラタンを、沙世はオムライスと加えてピザを、それぞれ注文した。伊坂はもっとハンバーグとかステーキとかのがっつり系を頼むのかと思っていたけど、部活を辞めて食が細くなったのだとか。 「そういえば、なんでバスケ辞めたの?」と、尋ねた。  沙世が急におどおどしだした。  伊坂は自分の右肩に手を当てて、怪我のエピソードを二つ三つ話してくれた。 「へぇー」と、沙世が言った。 「沙世も知らなかったのかよ」  お前ら登校で朝一緒の電車に乗るとか言ってたけど、どんだけ浅い会話してたんだ。  朋美も訝しげに沙世を見た。  まぁ、沙世にも思うところがあって聞けなかったのかもしれないけど。 割と伊坂が軽い様子で喋ってくれたので、もう少し踏み込んでも無遠慮にならないだろうと思った。 「他のスポーツはやってみないの? せっかく身長あって、身体も作って、もったいなくないか?」 「他のスポーツかー。考えたことなかった」と、伊坂は本当に意外そうに応えた。よっぽどバスケットにかけてたんだろうな……。 「サッカーとか良いんじゃない? ねぇ、沙世ちゃん」と朋美が言った。
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