第1章

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「サッカー、サッカーねぇ、どうだろ? 結構プレス厳しくて、肩入れてディフェンスしたりするからね。いや、しかし、やってやれなくはないでしょう! ううん、個人的には、ぜひともやっていただきたい!」 「なんだその口調。力入りすぎだろ」 「あはは、おっかし」と、朋美が口に手を当てて笑った。 「三人とも、本当に仲が良いんだね」と、伊坂が言った。  すると、朋美は何かに気付いたようにハッとして、口に当てていた手を顎に置いて、考え事を始めた。今日はなんだか気合いが入っていたようだけど、きっとそのことに関係しているのだろう。  沙世はそんなことはお構いなしに――というよりたぶん気付いてないな――勧誘を始めた。 「私、伊坂君の学校のサッカー部のマネとマブだから、口利きするよ! マネとマブだから」 「なんで二回言った」 「韻踏んでて気持ち良くて、マネとマブ」 「マブって、最近なかなか言わないけどな」  などという俺達の話を聞きながら、伊坂も考え事にふけり始めた。久しぶりに再会した時に感じた瞳の陰影は失せて、何かが灯り始めたようだった。 「そのマネージャー、卯月葵ちゃんっていってね――」 「もういいだろ、ガチすぎなんだよ。それより、沙世のおごりのピッツァいただきまーす」 「あああ……、良いよ、どうぞ、もう……」  この数十分間の会話が、朋美と伊坂の、何かを変えるものであったなら、それはとても嬉しいことだ。この食事会を開いた甲斐があったというものである。  その後、俺達は次にどこに行くかを話し合った。結果、ゲーセンとカラオケに行くことになった。  伊坂はゲーセンにある安っぽいバスケットのフリースローゲームで、手首だけを使って、ゆっくりと、確実に、シュートを何度も決めた。制限時間が来た時、伊坂はなんだか吹っ切ったような顔をしていた。単純に凄いと思った。  朋美はなぜかカラオケで「友達でいよう」というような失恋の歌を歌った。悲しい歌のはずなのに、朋美は曖昧な笑顔を見せていた。歌唱力には圧倒された。  沙世は、まぁどうでも良いのだが「懐かしいね」と何度も口にしていた。色々と思い出すことがあったようだ。  俺達はへとへとになるまで遊んで、別れた。
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