第1章

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 鍋に、ご飯と水をひたひたに入れて、火にかけた。 「今更こんなこと聞くのもアレだけど――」 「『アレ』ってなんだ」と、父はポカンとして言った。 「こんなこと聞くのも変だけどってこと! お父さんはなんで、その、お母さんと結婚したの? あんなヒステリック・マザー」 「こら、俺の前でお母さんの悪口を言うな。まぁ確かにヒステリックな面もあるけどなぁ。うーん。こんなこと言うのも『アレ』なんだが、良く、わからんなぁ」と、言葉を濁す。きっとわかってはいるのにはぐらかそうとしているのだ。恥ずかしいから。 「わかんないの?」と、先を促した。 「もういっそのこと、『アレ』な感じに言ってしまうが――」 「もう『アレ』って言うのやめて。うざったい」 「悪い。いっそのこと、知った風な感じに言ってしまうけど、結婚するなら『いつも一緒にいたい人』よりも、『いつも一緒にいれる人』の方が良いと思うぞ」 「本当に知った風なことを言うね」 「悪い。でも沙世が聞いてきたんじゃないか」  お鍋がぐつぐつしてきたので、弱火にした。  ちょうどケータイが震えた。メールだ。私がケータイを開くと、父は察してその場を離れた。  メールは朋美ちゃんからだった。 [今日は楽しかったね。私、はっきりしないこととかが苦手なんだけど、そんなことどうでも良くなっちゃった]  ん? なんだか文章の繋がりがおかしい気がする。なので[どゆこと?]と返信した。 [ずっと友達でいようってこと、かな]  余計わけがわからないって。 [それよりも、友達でいるためにも、これは言っておかないと、と思うんだけど]  何だろう? [沙世ちゃんって、楢崎君のことが好きなんだよね]  は?! どゆこと? 私は伊坂君のことが……。でも確かに、今日のファミレスでは、楢崎とばっかり話していた気がする。 [愛と恋の違いってヤツかな]  父の言葉で言うなら「いつも一緒にいたい人」と「いつも一緒にいれる人」の違いということか。良くわからない。
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