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鍋に、ご飯と水をひたひたに入れて、火にかけた。
「今更こんなこと聞くのもアレだけど――」
「『アレ』ってなんだ」と、父はポカンとして言った。
「こんなこと聞くのも変だけどってこと! お父さんはなんで、その、お母さんと結婚したの? あんなヒステリック・マザー」
「こら、俺の前でお母さんの悪口を言うな。まぁ確かにヒステリックな面もあるけどなぁ。うーん。こんなこと言うのも『アレ』なんだが、良く、わからんなぁ」と、言葉を濁す。きっとわかってはいるのにはぐらかそうとしているのだ。恥ずかしいから。
「わかんないの?」と、先を促した。
「もういっそのこと、『アレ』な感じに言ってしまうが――」
「もう『アレ』って言うのやめて。うざったい」
「悪い。いっそのこと、知った風な感じに言ってしまうけど、結婚するなら『いつも一緒にいたい人』よりも、『いつも一緒にいれる人』の方が良いと思うぞ」
「本当に知った風なことを言うね」
「悪い。でも沙世が聞いてきたんじゃないか」
お鍋がぐつぐつしてきたので、弱火にした。
ちょうどケータイが震えた。メールだ。私がケータイを開くと、父は察してその場を離れた。
メールは朋美ちゃんからだった。
[今日は楽しかったね。私、はっきりしないこととかが苦手なんだけど、そんなことどうでも良くなっちゃった]
ん? なんだか文章の繋がりがおかしい気がする。なので[どゆこと?]と返信した。
[ずっと友達でいようってこと、かな]
余計わけがわからないって。
[それよりも、友達でいるためにも、これは言っておかないと、と思うんだけど]
何だろう?
[沙世ちゃんって、楢崎君のことが好きなんだよね]
は?! どゆこと? 私は伊坂君のことが……。でも確かに、今日のファミレスでは、楢崎とばっかり話していた気がする。
[愛と恋の違いってヤツかな]
父の言葉で言うなら「いつも一緒にいたい人」と「いつも一緒にいれる人」の違いということか。良くわからない。
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