第1章

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 言われてみれば、実際、楢崎とは「いつも一緒にいれる」と思う。  そうか、私は楢崎に対して、特別な感情を抱いているのか。  伊坂君に対する思いを、激しく滴り落ちる滝に例えるなら、楢崎に対する思いは、大きな河のようなもので、確実に私の中で波打っている。滝にずっと当たっていることは出来ないが、大河にはずっと浸かっていることが出来る。  いいや、やっぱり良くわからない。愛と恋の違いなんて、曖昧で、良くわからない。  ご飯の粒と粒が曖昧になって、溶けていく。お粥の完成だ。 「あちち」  鍋全体が熱の塊になって、蓋を閉めていても、近づけば熱を感じる。 「あ、グラタン……」と、私は思い出した。  母が昔、グラタンをレシピ本を見ながら手作りしてくれたことがある。器ごとオーブンで焼くから、食卓に出てきた時に「熱の塊」だと思った。  私は「凄い」、「美味しい」、「レストランみたい」と褒めちぎった。  それから、何度か作ってくれたのだが、そのうち、グラタンは食卓に出なくなった。  二度目以降のグラタンは、当然のように受け取って、当然のように食べただけだった。  そういうことか。二度目以降も母は頑張っていたのだから、ねぎらいの言葉一つ、かけてあげるべきだった。  私が母に反抗心を持ったのは、高校に入学してから少し経った頃だった。  高校入試のために、母の言う通りの塾に入って、頑張って、頑張って、そうして母の満足する高校に合格した。  それなのに、母は毎日口うるさくて、嫌いになったのだった。  私の高校生活は「二度目以降のグラタン」だ。  私は母にもっとねぎらいの言葉が欲しくって、でも、母からしたら、高校受験合格のお祝いで完結していたのだ。  私も母も「グラタン」以外のメニューを作らなければならなかった。  私も母も「二度目以降のグラタン」も褒めてあげなければいけなかった。  とりあえず、今度から「行ってきます」を言うようにしよう。  他愛無い「挨拶」のような基本的な会話から、関係を取り戻していこう。  懐かしい。伊坂君とも初めはそんな感じだったっけ。
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