第1章

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   ****  それから電車内ではどんな話をしたんだっけ。なんだか夢見心地でいまいち思い出せなかった。確か、楢崎の話とかだっけ――? 「沙世ちゃん! どうしたの? ボーっとして」 「ああ! 朋美ちゃん、おはよう」 「口開けて、すっごい不細工だったよ」 「マジ! やば、ファンの夢を壊すとこだった」 「ファンて何」と、朋美ちゃんはクスクス笑ってポニーテールが揺れた。  林朋美ちゃんは、口数は多くないが、口調ははっきりとしていて、とても信用のおける女の子である。  そして、黒髪のポニーテールが、彼女の口数を補って、感情を表現してくれる。イエスなら縦に振れ、ノーなら横に振れ、といった具合だ。  頭が良く、察しが良く、あわよくば、お近づきになりたいという男子は数知れないといったくらい、容姿も整っている。  実際、高校に入ってから2回告白されたことがあるらしいが、あっさり断ったという。  伝聞調で語るのは、彼女はなかなか他人に相談せず、自分独りで結論を出す性格だからだ。そう、親友の私にも相談はしてくれなかった。  まあ、私に相談されても上手いアシストなんてできませんが。そして、朋美ちゃんはそんな私の不出来も織り込み済みだろう。独りで結論を出すのが最善だ、という聡い判断である。  というわけで、私は朋美ちゃんのことを親友だと思っているが、それは片思いかもしれない疑惑が付き纏っている。  片思い……かー。また伊坂君の顔が浮かんだ。小学生の時の顔だ。さっき会ったばかりなのに高2の顔は朧げだった。 「どうしたんだ、沙世? ボーっとして」 「ああ、楢崎か、おはー」 「ふぬけてんじゃねーよ、どうした? なんかあったのか?」 「FIFAの会長には私がなるしかないと思って」 「アホかー! AFOの会長でもやってろ」と、楢崎翔はツッコんで笑った。  予定調和だ。昔から、そう、これも小学校の頃から、私が冗談を言えば、何かしらツッコミを入れてくれて、楢崎は笑ってくれる。
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