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それから電車内ではどんな話をしたんだっけ。なんだか夢見心地でいまいち思い出せなかった。確か、楢崎の話とかだっけ――?
「沙世ちゃん! どうしたの? ボーっとして」
「ああ! 朋美ちゃん、おはよう」
「口開けて、すっごい不細工だったよ」
「マジ! やば、ファンの夢を壊すとこだった」
「ファンて何」と、朋美ちゃんはクスクス笑ってポニーテールが揺れた。
林朋美ちゃんは、口数は多くないが、口調ははっきりとしていて、とても信用のおける女の子である。
そして、黒髪のポニーテールが、彼女の口数を補って、感情を表現してくれる。イエスなら縦に振れ、ノーなら横に振れ、といった具合だ。
頭が良く、察しが良く、あわよくば、お近づきになりたいという男子は数知れないといったくらい、容姿も整っている。
実際、高校に入ってから2回告白されたことがあるらしいが、あっさり断ったという。
伝聞調で語るのは、彼女はなかなか他人に相談せず、自分独りで結論を出す性格だからだ。そう、親友の私にも相談はしてくれなかった。
まあ、私に相談されても上手いアシストなんてできませんが。そして、朋美ちゃんはそんな私の不出来も織り込み済みだろう。独りで結論を出すのが最善だ、という聡い判断である。
というわけで、私は朋美ちゃんのことを親友だと思っているが、それは片思いかもしれない疑惑が付き纏っている。
片思い……かー。また伊坂君の顔が浮かんだ。小学生の時の顔だ。さっき会ったばかりなのに高2の顔は朧げだった。
「どうしたんだ、沙世? ボーっとして」
「ああ、楢崎か、おはー」
「ふぬけてんじゃねーよ、どうした? なんかあったのか?」
「FIFAの会長には私がなるしかないと思って」
「アホかー! AFOの会長でもやってろ」と、楢崎翔はツッコんで笑った。
予定調和だ。昔から、そう、これも小学校の頃から、私が冗談を言えば、何かしらツッコミを入れてくれて、楢崎は笑ってくれる。
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