第1章

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 特に手入れをした様子のない無造作ヘアー。それでも十分似合っている自然体の彼。  制服のブレザーのボタンも閉めずに、自由気ままな性格だ。それでいて理性的な面も持っている。何でも感情と理屈の両方が、芸術を理解するには必要なんだそうな。彼は美術部に入部している。  縁あって同じ高校に入ったが、周りに彼以外の知り合いがいなかった入学当初、その緊張の中で、彼との会話は良い息抜きになっていた。  そして、そのおかげで友達もできた。 「同じ中学の人がいないの。私も二人の中に入れて!」と、はっきりと、朋美ちゃんが仲間に入ってきてくれたのだ。  それ以来、3人で行動することが多くなった。2年生のクラス替えでも「3人同じになれて良かったねー」と言い合ったばかりだ。  基本的に私が冗談めかして喋る、楢崎が茶々を入れる、それを見て朋美ちゃんが笑うというのがパターンである。  私はこの3人の関係にとても満足していた。たとえ、片思いだとしても。 「そういえば今朝、伊坂君に会ったのよ」と、私は切り出した。 「伊坂って駆か! マジで? 元気してた?」  楢崎と伊坂君は、仲は良いが、頻繁に連絡を取り合うほどではないようだ。  いつか「男同士の関係なんてそんなもんだよ」と楢崎が言っていたように記憶している。  これも楢崎が言っていたが、「沙世には女らしさが足りない」そうだ。弁明しておこう、頻繁に連絡を取り合っている人物がいるので、私は女である。 「伊坂君って? 中学の同級生?」  流石朋美ちゃん、察しが良い。 「そう。小学校から一緒なの。背がね、こーんな伸びててびっくりした」と、私は過剰に手を広げて表現した。 「はいはい、人類はそんなに大きくならない。伊坂の奴、チャラくなってなかったか?」  チャラさ、で言えば、女の私に話しかけてきたんだから、ある意味ナンパ、だったのかな? でも……、知り合いだし、まぁノーカンでしょ、ノーカン。 「変わってなかったよ」  そう、彼も、私も、相も変わらず……。
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