第1章

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   ****  小中学生の頃と変わったことと言えば、私は今、絶賛反抗期中である。括弧、母に対して。  四人家族だが、少し歳の離れた兄は県外の大学へ進学し、下宿している。私もそのあとを追うつもりでいる。母と同じ屋根の下で暮らすことが不愉快なのだ。  晩御飯は用意されたものを独りで食べ、終始無言を貫き自室へこもる。  母とはここ一年くらいまともな会話をしていない気がする。しても、事務的なやり取りだったり、父を仲介役に挟んだりといった風だ。  どうしてこんなにも母を毛嫌いしているのか、自分でもよくわからない。自分でもよくわからない深層心理の部分が、母を拒否しているのだ。私はただ単純に、それに従って行動しているだけ。それだけだ。あまり深く考えたことはない。けれど、時々自分の大人げなさが嫌になったりする。  というわけで、学校は楽しいが、自宅での暮らしは居心地が良いものではない。そんな中での清涼剤は友達とのメールのやり取りだ。  先に言った、頻繁に連絡を取り合っている人物、こと、卯月葵ちゃんへのメールを打とう。  葵ちゃんは中学時代に通っていた塾で出会った一つ下の後輩で、サッカー観戦の趣味が合ってとても親しくなったコだ。  彼女は好きが高じて、サッカー部のマネージャーをしている。  自身もかなりの運動神経の持ち主だから「選手としてどこかの部活に入ったら?」と、何度も打診しているのだが「女子サッカー部なら即刻入るんすけど、我が校に存在しない以上、あり得ません」と頑なだ。  いつもはJリーグの試合についての講評をメールするのだが、今日はというと。 [2年生の伊坂駆君ってわかる? 確か葵ちゃんと同じ高校だと思うんだけど]と、送信した。  返信はすぐに来た。 [聞き及んでおりますとも。今や我が校バスケ部のエースっすよ] [有名なんだ。でも、バスケ部は辞めたみたい……。今朝、電車でたまたま会ったんだ] [それはそれは、おめでとう、で良いんすかね?] [え、どういうこと?] [初恋の人と一緒に登校なんて、夢みたい、と思って]  あれ? 初恋だとか、そんな話までしてたっけ? 時々自分の口の軽さが嫌になったりする。
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