第1章

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 反抗期中の家で流れる沈黙なら、願ったり叶ったりなのだけど。  伊坂君に遠い目をさせないために、思い出話はNGとした。  また、バスケ部を辞めた理由が聞きづらくて、スポーツの話題もNGである。  消去法で「私の高校の話」ばかり。それを伊坂君に、ただただ喋る。 「そうそう、それでね、とにかく楢崎が、伊坂君に『会わせて』ってうるさいの。『休みの予定を聞いてきて』って」  もどかしくて堪らなかった。本当は楢崎相手の時のように、軽口を言って、小突かれて、そんな掛け合いがしたかった。  せっかく二人きりで話ができるのに、その時間を有効活用できていない。そんな感覚が付き纏う。  何とかならないものかと、考える暇もなく、私の降車駅に電車は到着してしまう。  ああ、今日もまた、隔靴掻痒。  そしてこの、席を立って別れなければいけないこの感じ、切なさは、身に覚えがあった。  小学校の席替えの時だ。  車内アナウンスが次の駅への停車を告げる。私のお喋りが途切れる。 「小学校の時さ、一回だけ席が隣になったこと、覚えてる?」と、伊坂君が言った。  今でも鮮明に、覚えている。 「あの頃はなんとなくさ、またいつか、隣になれると思ってたんだ」  電車の座席に隣同士で座りながら、伊坂君がそう言うと、私は不意に実感した。  私はもう一度、初恋をしたんだ……。  車両の扉が開いた。
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