第1章

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   ****  小学校の低学年の頃は、伊坂君とは特に接点はなかった。ずっとクラスも別々だった。  けれど、5年生になって、同じクラスになって、名簿順からの初めての席替えで、隣同士になった。  ウェーブ掛った地毛っぽい茶髪が特徴的で、柔らかな笑顔が印象的で、「初めまして」から始まって、自然と話すようになっていた。  取り立てて仲良くなったわけではなく、授業前後に「宿題やった?」とか「授業疲れたね」とか、そんな他愛無い「挨拶」のような基本的な会話をするくらいだ。  その頃は、良い人だな、程度にしか思っていなかった。  しばらくしたある日、私は女子グループからハブにされてしまった。  理由は良く覚えていない。女子とはそういうものだ。「かわりばんこ」にそういう役回りがやってくる。  いつも一緒に遊んでいたコ達と口がきけなくなり、休み時間は孤独に過ごすようになった。  それはとても悲しく、しかし誰にも相談できなかった。まるで、四角く縁取られた砂場がぬかるんで、その泥の上で立ちすくんでいるような感覚だった。仄暗いもやもやしたものを独り抱えていた。 「なんか女子同士で大変っぽいけど、俺には知ったことじゃないからさ」  休み時間の終わりがけに、男子と遊んで帰ってきた伊坂君が、そっと言ってくれた。  普段と全く態度を変えず、柔らかな笑顔で。  泥が乾いて、いつもの砂場に戻っていくような感じがした。  覚束なかった足元が固まって、心がしっかりと支えられていく。  状況は何ひとつ変わっていない。だけど、きっと大丈夫。そのうち何とかなるだろう。そう思えるようになった。  実際、数週間で次の「ハブられ役」が決まって、私は女子グループに復帰できる運びとなった。  それが何だかバカバカしくなってしまって、以前のようにその女子グループに深く関わる気になれず、男子・女子関係なく席の近いコに話しかけて、交友関係を広げていくことに主眼を置いた。  後任の「ハブられ役」のコとも、影でこっそりお喋りをした。「俺には知ったことじゃないからさ」という伊坂君の言葉が、心の中でずっと木霊していたからだ。  余談だが、楢崎と妙に仲良くなったのもこの頃だった。
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