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ある日、伊坂君とお喋りをすると、決まって自分の心臓がバクバクと脈打つことに気付いた。
伊坂君は小学校の時からバスケ部に所属していた。
一度だけ、新たに親しくなった、活発で女子バスケ部に入っている友達に誘われて、男子バスケ部の試合を見にいったことがある。
伊坂君はどちらかと言えば小柄なほうだった。私の方が背が高かったくらいである。
けれど、コートの中で一番走り回っていたのは伊坂君だった。私はそれを、ずっと目で追っていた。
汗って、キラキラして綺麗だなぁと、そう思ったのは、生まれて初めてのことだった。
試合結果は、残念ながら、伊坂君のチームが負けてしまった。
しかし、私の胸は高鳴り、やはり心臓は激しく脈を打っていた。どうやら、伊坂君を見つめるだけでも、ダメらしい。
そこでようやく、私はその現象の名を知った。
「恋」だ、と。私は伊坂君に「初恋」をしたのだ、と。
やがて、席替えの時が訪れた。
座席が変わってしまうことに、あんなにも「恋しさ」を覚えたのは、生まれて初めてのことだった。
「沙世ちゃん、またね」と、伊坂君はいつも通りの、柔らかな笑顔で言った。
「うん……、また――」と、私はぎこちなく応えた。
そうしてその後、小6と中3の2回、同じクラスになったが、再び席が隣同士になることはなかった――。
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