第1章

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俺が勝倫太郎と会うのは決まって四谷三丁目の交差点近くの古びたビルの2階にある「かめやま」という喫茶店だ。 最近はどこにいっても、外資系のよくわかんねぇ小難しいカタカナの名前のカフェばかりで、昔ながらの純喫茶なんてものはなかなか見当たらない。 俺にとってはあんな落ち着きのない店で、やけに高い椅子に短い足をブラブラさせながら泥水みたいな珈琲をすするなんてのはまっぴらごめんだね。 この「かめやま」はマスターが無類の珈琲好きで、その尋常ならざるこだわりを知っている客しか入ってこない。 そんなことで儲かるのかって? 儲かりはしないだろうが、ここのマスターは古いとはいえこのビルのオーナーなので、基本的にはビルのテナント料で喰ってるのさ。 まぁ、いざとなりゃビルごと売っちまえばいい。 ひとごとだと思って気楽に言うなって? ま。 そうでもなきゃこんな不採算な店やっちゃいられねぇだろうって話。 それでも俺みたいな、フリーライターにとっちゃ羨ましい限りだよ。 こちとら、ちんけな雑誌に記事を書いてすずめの涙みたいな原稿料貰って糊口をしのいでいる毎日。ここんところは、小さなミステリー系の雑誌に いわゆる「都市伝説」みたいな嘘くさい連載をやってる。 それが俺のメインの食い扶持でね。 今から会う勝倫太郎って男がそいつのネタ元ってわけだ。 「ハイマウンテンのニカラグアでいいかい?」 マスターが言った。 歳の頃は70手前。白髪でこの年齢にしちゃ熊みたいな立派なガタイ。立派なあごひげと日焼けした顔とギョロっとした目、愛想はいい方じゃないが、笑うと意外に愛嬌がある。 とはいっても滅多に笑わなきゃ、ほとんど無駄口も叩かない。 まぁ、口数が少ない方が客としてはありがたいんだが。 なんせ、狭い店で、カウンターに3席ほど、あとはテーブル席がふたつ。こいつでマスターがおしゃべりときたら居場所がどこにもなくなっちまう。 店は質素でなんの味気もないが、テーブルも椅子もやたら頑丈そうな木製で、こいつが存外、温かみがあって居心地をよくさせるんだ。 マスターは年代物のコーヒーミルで豆を挽きはじめた。 image=488126085.jpg
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