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「彼女はどうしても僕のことが忘れられなかったらしい・・。」
岩村達は目の前にいる幽鬼のような吉良の姿に怯えずにはいられなかった。
もはや骨と皮だけ。
頭髪は抜け落ち、歯茎などは剥き出しになっている。
それでいて目だけは爛々としてこちらをじっと見つめている。
まさに骸骨が喋っているといっても過言ではない。
吉良の4LDKのマンションは、以前と同じように綺麗に整理整頓されているが、そこには全く生気というものが存在しない。
部屋そのものが何か魔界への入り口のように、圧迫する篭った空気が淀んでいる。
吉良はリビングのソファで身体を硬くしている岩村達の前に大量の手紙を出した。
岩村はその手紙を手に取った。
差出人はすべて「大石莉子」とある。
手紙は古くなり変色しているものもある。
日付は10年前にまで遡る。
夥しい量である。
「読んでもらっても構わない。」
吉良はしゃがれた声で促した。
吉良はじっと岩村を見つめる。
読まないわけにはいかない圧迫が痩せ衰えた吉良の身体から発せられる。
岩村はごくりと唾を飲み込んだ。
野田と内田はただただ身を固くするだけでまるで石像のように身動きひとつしない。
岩村は吉良の眼光に圧されてるように、いくつかの手紙に目を通した。
そこには故郷で吉良を待つ恋人のあどけなく切ないラブレターが他愛もない表現で綴られていた。
「彼女は10年の間、3日をあけず手紙を送ってきた。ひらすら僕が故郷に戻るのを待ってたんだ。」
吉良は苦渋の表情を浮かべた。
「僕は彼女が嫌いだったわけじゃない。。いつかは彼女を東京に呼びたいと思ってた。ただ毎日過ぎていくのが早くて・・。」
「彼女は君に東京まで会いにこなかったのか?」
岩村は至極あたりまえの質問をした。
吉良の故郷は北海道である。距離はあるが、会いにこれない距離ではない。
その問いに吉良は静かに首を振った。
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