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「彼女は重い病の家族を抱えていて家を空けれる状態ではなかった。」
「それじゃ、君が会いに行けばいいじゃないか。実家もあるわけだし。」
「僕は意図的に彼女を避けてた。正直気持ちが離れていたんだ。。」
吉良はすすり泣くようなか細い声で言った。
「はっきり別れを告げれば良かったんだが、その勇気もなかった。彼女が僕を責めないことをいいことに、そのままほったらかしにしておいた。。」
吉良は肩を震わし泣いた。
その泣き声は陰々滅々としてこの世のものとは思えない不気味さだった。
肩が震えるたびに髪の毛が抜け落ちる。
その気味悪さに岩村は全身が総毛立った。
「そ、それが君を追い詰めてる原因なのか・・?」
野田が掠れた声で吉良に言った。
その口調の中に「その程度のことで」というニュアンスがほんの少し混じっているのを吉良は敏感に察知した。
ぎろり。
と野田を見上げる。
充血した眼球の焦点が猫のように細くなり、殺気が迸る。
野田は思わずそのあまりの形相に怯えて下を向く。
「変わったんだ・・。」
吉良は言った。
「変わった?」
「今年に入って手紙の内容が・・。」
吉良はふらふらと立ち上がり、リビングルームの白い洒落たサイドボードを開き、真新しい封筒を取り出した。
そしてそれを岩村たちの目の前のテーブルに投げ捨てるように置いた。
「見てくれ。」
岩村は手紙を手に取り中身を取り出す。
取り出した瞬間に「異常」がわかった。
真っ白な紙におそらく口紅で書かれたのだろうか、それまで手紙の可憐な文字とは全く異なる乱暴で禍々しい筆跡。
その文字が紙いっぱいにひろがっている。
うらぎりもの
そこにはそう書かれていた。。
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