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珈琲の香りと煙草の匂いが鼻腔に溢れる。
「なんだか怪談めいてきたな。」
俺は勝の話に引き込まれていた。
「いや、事件の匂いもするな。いずれにせよおもしろくなってきた。」
「都市伝説っぽくなってきただろ。」
勝は満足気に頷いた。
男にしてはしなやかな指先で木製のカウンターのふちをトントンと叩く。
「女からの手紙は30通近く、すべて殺すとか、恨むとか、許さないとか、そういう呪詛の言葉が書き連ねていたらしい。」
「ちなみにその手紙ってのは、その男が死んだあと部屋に残ってたのか。」
「もちろんだ。警察が一旦押収した。」
「なるほど。」
「まぁ、脅迫状といえないこともないからな。」
「それでその後、どうなった?」
俺は勝に話を促した。話の流れは安っぽい怪談話だが、これが実際にあった話であり、勝が絡んだ話だとどういう展開になるのか。
俺の興味はその後の展開に移った。
勝はにやりと嗤った。
そして、珈琲(いた単なる砂糖湯)にグラスに入った水をぶち込む。
「あぁ。。なんてことを。」
もはやニカラグアの良さはかけらもなくなったであろう。まさにニカラグアに対する、いや、珈琲に対する陵辱といってもいい行為だ。
勝は慌てる俺は楽しげに見て話しを続ける。
「時間が遅くなり、同僚達は男の部屋に泊まることにしたらしい。男の様子を見て、万が一のことがあったらと心配したことと、男がその恋人が夜な夜な枕元に現れると言うので、確かめようとしたそうだ。」
「女が枕元に現れると・・。」
「話だけ聞くと、怨霊かなにかのようだな。まぁ、同僚達は男が精神的に追いつめられて、そういう幻覚を見たのだろうと思ったらしい。だから、一晩一緒にいて何もなかったと伝えることで男を少し落ち着かせようと考えたようだ。」
「なるほど。」
俺は頷いた。
職業柄、幽霊や怨霊の話は取り扱うが、その手の話は信じたことがない。
基本は人間の脆弱な精神が生み出す「幻」だと思っている。
「そして夜が更け午前2時頃のことだったらしい・・。」
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