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岩村の神経はいきなり目覚めた。
ドキリと心臓が痛む。
足のつま先から心臓まで冷たいものがすーっと上がってくる。
頭から血の気がひき、同時に意識が覚醒する。
いや。
覚醒するなんてものではない、鋭敏かつ痛いくらい研ぎすまされる。
おかしなもので、身体はまるで鉛のように動かない。
手も足も自分のものとは思えないくらい重い。
その反面、鼓動だけが早鐘のように打っている。
む。
岩村は全身に力をこめる。
それを何度か繰り返した。
む。
む。
バチッと身体の中で電流が走った。
意識の神経と身体の神経がようやくつながる。
岩村はいきなり身体を起こさず、そっと深呼吸をした。
体温が一気に上がる。
いる。。
何かが。。
部屋の向こう。
そう。
リビングの窓ガラスの向こう。
ベランダだ。
確実に何かがそこに「存在」している。
岩村の鼓動はこれ以上ないくらい早くなる。
そっと、ベランダの向こうの「存在」に気づかれぬように腕時計を見る。
午前2時を時計の針は指していた。
岩村はそっと、床に寝ている野田と内田を見た。
ふたりとも穏やかな寝息を立てている。
起きる気配はない。
人間というものは緊張すると呼吸困難になるらしい。
岩村は何度も気ぜわしく息を吐き、空気を吸う。
そのたびにあの嫌な「死臭」が鼻腔を満たし、身体から生命力を奪っていくようだ。
見ている。
ベランダの「存在」は岩村の意識を確実に捕獲しているようだ。
まるで、獲物を狙う獣のようにジッと息を殺して、岩村を窺っている。
分厚い窓ガラスに遮られているはずなのに、もう間近にいるような気配と息づかいを感じる。
今にも窓ガラスをすり抜けてこちらにやってきそうだ。。
岩村は意を決した。
そーーっと。
そーーーーっと。
身体を起こす。
とはいってもほんの少し首をベランダの方に起こすだけだ。
白いレースのカーテンの向こう。
「それ」は「存在」した。
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