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俺が勝と知り合ったのは、勝が上層部から命じられた特殊な捜査でのことだった。
俺はその事件で重要参考人として警察からマークされ、一時はあわや犯人にされるところを勝に助けられたのだった。
その事件は世にも不思議な事件だったが、結局、真相はよくわからず(おそらく勝は知っているのだろうが)結末は曖昧に終わった。
ただ、俺と勝はその事件を「はじまり」として、俺は勝の代わりに情報を集めたり、囮捜査のような少しばかり危険なことを手伝う代わりに、勝から様々な未解決事件の裏側を教えてもらい、それをネタに「食い扶持」を稼いでいる。
その一部が「都市伝説」の連載に使われているってわけだ。
もちろん「それ以外」の使い方でほとんどの稼ぎを生み出しているんだが、そいつは表沙汰にはできない。
ま。
想像の範疇ってやつで充分だ。
「いいか。勝さん。俺はアンタがどっかへ遠くへ飛ばされたり、クビになったりしたら、俺の食い扶持がなくなるのが困るから言ってるんだ。もう少し身勝手なふるまいを・・。」
「おまえさんと会うことが一番身勝手なんだがな。それを止めたらおまえさんが困るだろ。」
勝は鼻で笑った。
「勝さん。なんにします?」
マスターが勝に笑顔を向けた。
俺には年に数回も笑顔なんざ見せないこのマスターがなぜか勝にはいつも笑顔を差し向ける。
「やっこさんと同じものでいいさ。」
勝は俺の方に顎をしゃくってみせた。
人が違えばカッとするほど無礼な態度だが、この男だとなんとなく許せてしまうから不思議だ。
「火を貸してくれ。」
勝はポケットかた煙草を取り出して、口にくわえた。
「禁煙するんじゃなかったのか?」
「あぁ。マイルドセブンがメビウスなんていうわけのわかんねぇ名前になるのを機会にスッパリやめてやろうと思ったんだが。長年の習慣ってのは抜けねぇもんだな。
マイルドセブンからラークに鞍替えしてそれですべて解決さ。」
俺が差し出した100円ライターで煙草に火をつけて深く煙を吸い込んでゆっくり吐き出す。
「美味い煙草に旨い珈琲を飲めりゃ多少はつまらん仕事もしがない稼ぎと我慢できるもんさ。」
「最近はどこもかしこも禁煙だからな。」
俺も煙草に火をつけた。
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