軋む助手席

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「すみません!」 慌てて離れようと背中を仰け反った。 すると部長は、片手で私の肩を掴み、そのまま自分の胸に私の身体を引き寄せた。 心臓の音が聞こえる。 速いリズムで鳴るこの音は、私の心臓か、それとも……。 「……部長?」  恐る恐る名前を呼ぶ。 嫌なわけでは決してない。 でも、どうしてこんな体勢のままでいるのか聞かずにはいられなかった。 けれど部長は何も答えない。 雨音と心臓の音だけが耳に届く。 部長は胸に私を引き寄せたまま、空いている方の手で自分のシートベルトを外し、そのまま助手席のレバーに手を回してシートを倒した。 そして、私を助手席のシートに仰向けに寝かせ、組み敷いた。 部長は私を見下ろしたまま何も話さない。 鳴り止まない雨音が、車内に響き渡っている。 部長の顔が私に近付いて来ると、ギシリと音がして助手席が軋んだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6646人が本棚に入れています
本棚に追加