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「ね、ね、松岡先生でも寝癖ついてる事あるの?」
「は?」
梅田さんが距離を縮めて僕に擦り寄る。そういえば興味が薄れたからだろうか、特に慌てて間を開けたりする事がなくなったなぁ。
「寝癖?」
「うん、こぅ、くるんと跳ねてるとか?」
自分の後頭部辺りの髪をクルクルと指で巻き付ける梅田さんはショートヘアーに軽くパーマをかけている。このところ彼女の気さくさが分かってきたせいもあるだろうか、彼女にとても似合っていた。
中肉中背、痩せてもなければ太ってもいない。顔は異常に小さい。小顔だ。僕の一回り、いや、二回りは小さいかもしれない。
「さぁ、知らない」
「えー」
背凭れに勢いよく凭れかかった梅田さん。
シフォン素材の柔らかなシャツが少しだけ揺れて合わさった胸元を覗かせた。
「あー、梅田ちゃん、男子に目の毒よ」
笑いながら沢山の本を覗く千恵さんから警告。これもほぼ毎日の事だった。
「えー?だって、門倉くん、ちっともあたしに興味無さそうだし」
「あらぁ、和泉くん、そんな事ないわよねぇ?」
いや、実際ありません。
「あたしも門倉くんには興味ないし
多分、一晩一緒にいても何にも起こらない気がする」
かわいそー、と言いながらも千恵さんは文献をチェックする手を止めない。この人の凄いな、と思うところはこういうところ。
何か一つに集中する事があっても、もう一つ、なんなら二つくらいの事をちゃんと聞いていて、あわよくば実践してしまう。
ちょっとした聖徳太子様だ。
「ね、門倉くん」
下から覗いてくる眼差しも普通なら、あー、可愛いな、と思ったりときめいたりするんだろうけど
「そうだな」
ちゃんと視線を合わせても、ビクともしない心臓とテンションにただただ脱帽。
僕の視線は梅田さんからその後ろに現れた人へと移っていく。
そうなんだ。
この人だけには、それは通用しない。
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