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待ち望んでいた手。そうだろ?その筈。
だけど襲ってきたのは抗いようのない吐き気。突然だった。せっかく胃の中に入れたゼリーが激しく逆流する。
「ぐぅっ」
その場にしゃがみこんで、連続する嘔吐感に咽せ続けた。
苦しくて、苦しくて、胃が捻れそうだ。
咳き込む僕の背中を撫でる掌は変わらない。
あぁ、そうか。
ストレスだ。
止まらない嘔吐きと微量でも駆け上がってくる胃液。苦味とゼリーの味が同時に鼻から抜けて、それさえもが嘔吐きを促す。
「和泉、大丈夫か」
「っ、だ、だい」
「大丈夫じゃないよ、信弥」
フラリと入り口に立ち上った影の主は
羽柴先生だった。
酷い傷を唇と、口の端とに作っていて
鼻は真っ赤に染まった布地で押さえられていた。
先生の拳に付いた赤いイロの正体は羽柴先生の血液。
「和泉くんは、信弥に拒否反応を起こしてるんだ」
ムカつくぐらいにピタリと言い当てられた気がした。
本当にムカつく。
「要、オレの前に姿を見せるなと言わなかったか」
「そんなに嫌なら見なきゃいいでしょうが」
低く地を這い、ビリビリと他を震えさせる松岡先生の音と、嘲笑うような軽々しい羽柴先生の音がとても対照的だった。
胃の中に嵐が渦巻いている。
僕を誰か、解放してほしい。
「っ、ぅえ゛ぇ゛」
「ほら、信弥が離れないと和泉くんは、苦しんだままだよ」
指の先も足の先も見た事がないくらいに攣り、もう吐くものが無くなったというのに、それは続く。
「和泉くん」
これは、いけない、と羽柴先生が駆け寄るのが見えた。
「信弥どいて」
先生の手が僕から離れる。
そんなつもりはない。松岡先生が嫌だなんて思ってはいない。寧ろ、もう離れたくないとさえ渇望して懇願しているのに
僕の身体はどうしたんだ。
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