第8章

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待ち望んでいた手。そうだろ?その筈。 だけど襲ってきたのは抗いようのない吐き気。突然だった。せっかく胃の中に入れたゼリーが激しく逆流する。 「ぐぅっ」 その場にしゃがみこんで、連続する嘔吐感に咽せ続けた。 苦しくて、苦しくて、胃が捻れそうだ。 咳き込む僕の背中を撫でる掌は変わらない。 あぁ、そうか。 ストレスだ。 止まらない嘔吐きと微量でも駆け上がってくる胃液。苦味とゼリーの味が同時に鼻から抜けて、それさえもが嘔吐きを促す。 「和泉、大丈夫か」 「っ、だ、だい」 「大丈夫じゃないよ、信弥」 フラリと入り口に立ち上った影の主は 羽柴先生だった。 酷い傷を唇と、口の端とに作っていて 鼻は真っ赤に染まった布地で押さえられていた。 先生の拳に付いた赤いイロの正体は羽柴先生の血液。 「和泉くんは、信弥に拒否反応を起こしてるんだ」 ムカつくぐらいにピタリと言い当てられた気がした。 本当にムカつく。 「要、オレの前に姿を見せるなと言わなかったか」 「そんなに嫌なら見なきゃいいでしょうが」 低く地を這い、ビリビリと他を震えさせる松岡先生の音と、嘲笑うような軽々しい羽柴先生の音がとても対照的だった。 胃の中に嵐が渦巻いている。 僕を誰か、解放してほしい。 「っ、ぅえ゛ぇ゛」 「ほら、信弥が離れないと和泉くんは、苦しんだままだよ」 指の先も足の先も見た事がないくらいに攣り、もう吐くものが無くなったというのに、それは続く。 「和泉くん」 これは、いけない、と羽柴先生が駆け寄るのが見えた。 「信弥どいて」 先生の手が僕から離れる。 そんなつもりはない。松岡先生が嫌だなんて思ってはいない。寧ろ、もう離れたくないとさえ渇望して懇願しているのに 僕の身体はどうしたんだ。
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