最終章

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よくよく考えてみたら全部が全部先生の思うツボじゃないか。そうでしょ? 僕に近づきたい為に姉貴と結婚して ジワジワと僕に侵食して 僕を飲み込んで 姉貴を掌で捏ねながら 僕の中に巣を張り巡らせたのは 離れている間でも、至る所で僕を縛り上げる為でしょう? まんまとそうなったよ。先生。 零れた涙が、また一つ同じ道筋を辿った。 先生の思い描いた通りになったでしょ? 貴方が居ないといてもたってもいられない僕に なったよね。 自分の想いが昔なんかと比較できないくらいに厚く熱く膨らんでいることに、ちょっと可笑しくなって吹き出す。 「ここまで人を好きになれるんだ、人って……」 まるで、他人事のように呟いて、さっさと家事を済ませてしまおうとクルリと向きを変えた。 キララが言ってた“おでかけ”というフレーズが鼓膜に残っていて、そこを擽る。 まだまだ舌っ足らずな物言いで幼児独特の声音で 可愛らしいことこの上ない。 シンクに浸された小さな食器を見て自然に纏う微笑みでさえ幸せだと感じる僕は やっぱり、相当、不思議な男だ。 この家が不思議なのも、頷ける話だ。 「早く片付けよ」 先生がいつ帰ってくるかなんて分からない。 出かけるから、と言ってもそれはすぐじゃないかもしれない。 なんせ僕はさっきまで寝てたんだ。 その辺は分からなくて当然。 いそいそと動く身体とそわそわと弾む気持ちがシンクロするのは心地よかった。 ね、たったこれだけでこんなに貴方に縛られてるんだよ僕は。 手にしたスポンジをぐっと握ると、たくさんの小さな穴からぶくぶくと泡が飛び出した。 それはまるで 僕のダダ漏れな“好き”と同じくらい。
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