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閑静な住宅地の一角。
御影門柱が立つ少し広めの木製門扉を潜り抜け
玄関へ続くそこはちょっとした日本庭園。
まるでどこかの文化財を思わせるような
建物の引き戸を開ける。
「ただいま」
声をかけると直ぐいつものように出迎えてくれたのは、この家にやって来てもう40年が経とうとしているお手伝いのシノさんだ。
「お帰りなさい、和泉(イズミ)さん」
「シノさん、ただいま」
シノさんの笑顔はフクフクとしていて
本当に癒される。僕にとってはおばあちゃんのような存在の彼女。
「まぁ、和泉さん」
「え、な、なに?シノさんっ」
シノさん指差した先は、股間だった。
「全開ですよ、和泉ぼっちゃま!」
少しだけ怒ったような口調で言い放たれて、少しだけしょんぼり肩を落とすと同時にホッとしたのも事実だった。
……バレたのかと、思ったよ。
シノさん、焦った、真面目に。
あぁ!と、取り繕って急いでジッパーを上げる。
「もう!そんな事では門倉の跡目は継げませんよ!」
「はい、すみません」
シノさんは厳しい人だ。身なりに関しては特に。
靴は必ずイイものを履きなさい、から始まり
シャツには必ずアイロンを
スラックスにはプレス
そして、男子たるものいかなる場合も時間に遅れてはならない
と、幼少の頃より命を受け続け、今に至る。
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