28人が本棚に入れています
本棚に追加
世界が、消えて行く。
人も、街も、山も、海も、全てが消えて行く。
『無』へと、変わっていく。
「また、ダメか... ... 」
俺は自嘲気味に言葉を紡ぐも、タイムリミットが刻々と迫るこの世界の誰の耳にも届かない。
何をしても、何を叫んでも、全てが世界の消滅と共に消え失せる。
もう、何度目だろう。この光景を目に焼き付けるのは。
繰り返す度に、自分の中の何かが失われていく。
あるいは、とっくに無くなっているのかもしれない。
俺の心は、乾ききっている。
「疲れたよ... ... ... もう... 」
止めたい。
という言葉は声に出なかった。
なぜなら、
『ありがとう、ミーちゃん』
ほら、まただ。
いつも君が邪魔をする。
君の笑顔が、俺を必死に食い止める。
理性を保たせ、俺をこの無限地獄に縛り付ける。
後一回、もう一回だけと、麻薬のように囁く。
俺の心に一滴の潤いを与える。
「分かってるよ、... ... 紅葉(モミジ)」
さあ、終わりだ。そして、始まりだ。
ここに世界があったのかと疑わしいほど何もない『無』をぐるっと見回し、大きく深呼吸する。
「全ては君のために... 」
君の愛したこの世界は、俺が守るよ。
刹那、世界は男と共に、消えた。
最初のコメントを投稿しよう!