名前を呼んで

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 初男が、廊下で別のクラスの男子と話している。  何か忘れものでもしたのか、拝むように頭をさげて、笑っている。  教師には入れない、初男の世界だ。 「村橋先生」 「……は」  副担任の女性教師に呼ばれて振り返る瞬間、初男と目が合った。 「中原さんの件なんですけど……、ここじゃ、ちょっと」  初男の視線が背中に突き刺さる。 「ん、職員室で聞くよ」 「はい」  どうやら、決めたらしい。  彼女は両親の仕事の都合で、転校するか残って一人暮らしをしながら学校に通うかを選べずに悩んでいた。  本当は担任である私が相談に乗るべきだが、彼女は同じ女性のほうが打ち解けやすかったらしく、副担任の先生を頼っていた。 「……行くんだ?」 「ええ。もしかして、知ってました?」 「いや、残るなら廊下でも言えそうだな、と思っただけ。寂しいな、やっぱり……」 「経済的に、無理みたいです」
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