名前を呼んで

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「先生」 「……ん?」 「ご飯食べた?」 「まだ」 「お風呂は?」 「まだ」 「じゃ、明日の用意でもしてて。あ、冷蔵庫勝手に開けるよ」  台所のほうに行ってしまう。 「……うん」  つい、居間に正座してしまった。  何だろう、これ。  この感じ。  こんな日が、毎日だったらいい。  望んでしまいそうになる。  おもむろに立ち上がり、初男のそばに近づいた。  料理の邪魔にならないよう、背中から腹に手をまわして抱きしめる。 「……村橋先生?」  その立場を確認させるような問いかけをしないでくれ、と思う。 「名前で呼べ」 「……アパート、だから?」  外に声が聞こえてしまうから。  そんな理由なら、よかったのに。 「違います」  初男の読解力をあてにする。  これだけで、わかるはずだと。
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