名前を呼んで

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「武さん……」  自分から呼ばせておいて、おい……、と思うほど動揺する。  私を下の名前で呼ぶのはもう両親と親戚ぐらいしかいないため、ずいぶん久しぶりな響きだ。 「俺のことも……名前で呼んで」 「初男」 「本名で!」  まあ、もっともな意見だ。 「浦上将志」 「はい。……って、出席取ったんですか!?」  それも、もっともな意見だ、とひとり納得して初男から離れる。 「……何なんですか」 「何なんですか?」  作りかけの料理を指さす。 「……ふわとろの、オムライス。いま練習中だから成功するかどうかは微妙」 「玉子に切り目入れたらご飯の上でトロッとなるやつか!」 「うん。作ってる動画見て、独学で」 「……すごい、楽しみー」 「ちなみに成功率は半々ぐらいです。失敗しても、全部自分で食べるしかないから上達には時間かかります」  半分手伝おうか? と言いたいのをこらえる。
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