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10月に入ったばかりの金曜日。
朝晩の涼しさとは打って変わり、やや汗ばむ程に気温が上がった昼休み。
実咲はいつものようにデスクへランチバッグを出した。
すると、前の席のはるかが自分も手に持った弁当の包みを示して「咲ちゃん、よかったら屋上で一緒に食べない?」と、声をかけて来たので実咲ははるかと共に屋上へ向かった。
今日は弁当持参のはるかだが、いつもは1F玄関エントランスホールに併設されているカフェでランチを済ませる。
はるかの旦那さんがそこで働いているのだ。
それに、一般にも開放されているその店は定食が500円前後とリーズナブルな価格設定の為、社員の多くも利用している。
「はるかさんもお弁当なんて珍しいですね」
はるかは首を左右に振ってため息をつく。
「あ、まぁね……社食だけじゃなくて、最近カフェもウザいのよ。かしましいっていうか」
「かしましい、ですか?」
「ほら、うちのボスがとうとう離婚公表したでしょ。それで」
はるかや竹内など、ごく身近な同僚達や知人らには柊二がもう*年も前から事実上の離婚(仮面夫婦)状態にあった事は周知の事実だったが、元妻・如月静流サイドからの要望でその事実はずっとひた隠しにされてきたのだ。
はるか曰く、カフェや社食以外のひと息スポットでもその話題でもちきりらしく、女性スタッフの甲高い声が煩わしいそうだ。
如月静流が柊二との離婚を正式表明したのはひと月前の事になるが、未だにマスコミのゴシップネタになっている。
晴れて独身となった我が社きってのスゴ腕クリエイター・氷室は30才。
物凄く若いという訳ではないが、スラっと長身のイケメンで高学歴な為、
女性スタッフ達は20代の若手からアラフォー世代のバリキャリまで食指を動かしているらしい。
実咲は引きつった表情で ”あ、そうなんですかぁ”としか、返せない。
先週は久しぶりに2人でゆっくり過ごす事が出来た柊二を間近で見ているから、彼を取り巻く状況ははるかが話す以上に知っていた。
カバンに得体の知れない自己紹介カードが入っていたり、私物へ知らぬ間に香水を付けられていたり、マンションの玄関で待ち伏せされたりと、
ウソのようなホントの喩え話がある。
誠に女達の執念は恐ろしい。
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