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2人の時
『YO(よお)、柊ちゃん、珍しく今日はエライべっぴんさんと一緒やねぇ』
会社帰りに2人で立ち寄った、柊二の自宅マンションにほど近い商店街の魚屋の前を通りかかった時、そこの店主らしい60絡みの恰幅のいい小父さんに
声をかけられた。
「おお、そうやろぉ ―― ほんなら、久しぶりついでになんぞまけてぇな」
「アハハハ `,、('∀`) '`,、……ったく、ほんま柊ちゃんにはかなんなぁ(敵わんなぁ)」
店主は店先に並べてある鮮魚をざっと見渡して。
「今日はカジキのエエやつがあるさかい、それもってくかい?」
「ああ、いいねぇ。刺し身で2~3人前頼むわ」
車1台がやっと通れるくらいの狭い道幅の両脇へ立ち並ぶ、全長**キロほどの商店街。
たった今買い物を済ませた魚屋を始め、肉屋・八百屋・乾物屋・酒屋・薬屋・米屋・衣料品店等、大抵の日用品ならこの商店街だけで揃うのだ。
最近はひと駅離れた再開発地区に大型の24時間スーパーマーケットが出来て、このエリアの客もかなり流れて行ってしまったが、柊二のように代々家族で利用しているといった昔馴染みの固定客もいる。
会社から離れて、同僚達からの視線からも開放されると。どちらかと言うと幼い頃から引っ込み思案な実咲も少しは積極的になって、隣に並んで歩く柊二へ自分から腕を絡めていったりもする。
「もしかして、誘ってる?」
「も~うっ、柊二さんってばぁ……」
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
柊二の戸室は、1人で暮らすにはちと広すぎる大型4LDK。
アメリカ支社からの帰国に先駆け、適当な住処をと母親に頼んだところ。
”なるべく早く身を固めて孫の顔を見せろ!”との、無言の圧力も込められ
こんな無駄にだだっ広い部屋に侘びしく1人で住むハメになったのだが。
実咲と付き合うようになってからは男所帯の寒々とした部屋にも少しずつ色が加わり。
食器類もペアの物が増えて。
先日は合鍵も渡した。
実咲がオープンキッチンのカウンターテーブルに飾ってある鉢植えを見て、
「わぁ――柊二さんのもキレイに咲いたね」と、目を細めて微笑んだ。
その鉢植えは、先週2人で行ったドライブでフラリと立ち寄ったレストランで何周年目かのオープン記念とかでもらった物だ。
その店の店主が言っていた――”花は心を映す鏡”だと。
「鉢植えもいいけど――やっぱりオレはこっちの華をキレイに咲かせたいね」
と言って、柊二の熱い唇がその白い首筋に吸い付いた。
「あ、ちょっ、や――だめ……しゅじ、さ……」
「先週お隣さん越して来たって言ったっけ? ほら、窓開けっ放しだし、悪いけど、声は我慢しろよ。あ、もっとも咲が自分の悩ましい声をお隣さんにも
聞かせたいってならハナシは別だけど」
「えっ――あ、や――っ」
素早く前に伸びてきた柊二の手が実咲のスカートをたくし上げる。
「しゅじさ、だめだってば……」
「ったくいい加減やんなっちゃうよ、また出張だ。今週末こそ咲と一緒にゆっくり出来ると思ってたのにっ」
そう静かに喋る柊二の吐息も項にかかってくすぐったく、ピクリと身を竦めた。
「ホントならうんとロマンチックなムードで咲を抱きたかったんだけどな、さすがのオレにも2週間の禁欲はちとキツい」
スカートをたくし上げた手指がショーツの上から実咲のもっとも敏感な秘所をゆっくりなぞる。
「んっ――おねが、しゅ……ゃめて……」
「どーして? 気持ち、良くない?」
「だ、って、……」
「フフフ、だめとかイヤとか言ってるわりに、声かなりうわずってるよ」
なんて言いながら、柊二の口調は寧ろこの状況を愉しんでいるようで。
恥ずかしさのあまり足に不自然なまでの力が入り、だんだん内股になっていく実咲の足を柊二はグイッと開かせる。
「や――やだ……」
「だめだ――開いて」
「はぁはぁはぁ――んっ……」
「――ホラ、もう少し力抜いてごらん?……そう、いい子だ」
いつもみたいに柊二は優しくない。
びっくりするくらい性急だ。
ここの室温は素肌を晒すには少し肌寒いくらいなのに、実咲はまるでおふろで逆上せかけた時のように体の芯から得体のしれない熱が湧いてくるのを
ぼんやり感じ取っていた。
「あっ――はぁはぁはぁ…だ、め……」
いつの間にかショーツの間から滑り込んだ手指が直にその部分を刺激し始めた。
実咲の余計な緊張を解きほぐすようやんわり揉みしだかれ、やがてそれは、明確な意図をもって巧みにそのポイントを突く。
そこまではまだ、実咲は漏れそうになる声を辛うじて押し殺す事が出来ていたが。
「! はぁっ――あ、あぁンっ……」
キレイに伸ばされた爪の先で敏感なソコを引っ掻くようにされて、堪え切れず甘い嬌声が実咲の口から漏れた。
自分が発してしまった声なのに、自分でも信じられず羞恥でカァァァッと頬が赤く染まる。
「コラっ、声は我慢ねって言ったでしょ?」
そう、咎めはしてもその声は多分に笑いを含んでいて。
人に我慢しろと言っておきながら、柊二の愛撫はますますエスカレートしていく。
「あン……はァ……だめ……」
「だめ?……けど、咲のココ、もう凄いことになってるよ」
何が凄いんだろ? と、かろうじて残っている理性の片隅で思ったけど、そんな事今は恥ずかし過ぎて聞けやしない。
ともすれば簡単に崩れてしまいそうな体を、壁についた両手で支え、いつしか柊二の愛撫を素直に受け入れる体勢に。
「……分かる? オレの指、もう2本入ってる」
突然の柊二からのアプローチでコチコチに緊張していた実咲の体が、堪え切れない想定外の快楽の絶頂に達しピクピクと小刻みに痙攣し、やがて脱力して柊二の腕の中へ全身でしなだれかかった。
そんな実咲をしっかり抱きとめた柊二は、手近なソファーの上へその体をそっと横たえ ”愛してる” と囁いてキスをした。
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