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そんな私の試行錯誤にボスや竹内チーフが忙しい仕事の合間を縫って付き合ってくれた。
2人の物言いは歯に衣着せぬって感じでキツいけど、的確に問題点をしてくれてかなり勉強になった。
そして当初は我ながらとんでもない背伸びをしたもんだと思ったあのデザイン学校への入学で新たに広がった人脈が、とても役に立った。
私がやっと初仕事をもらえたって告げると、みんなそれぞれ授業や昼の仕事で手いっぱいなのにそれをそっちのけで、色んなアドバイスをくれた。
期待されてるわけじゃないんだろうけど、ボスに少しでも私を認めて貰えたら!
毎日、そんな事ばかり考えていた――。
「――米倉、ついて来い。仕事は終わりだ」
「はぁ?」
突然言い出したボスに私が戸惑っていると、ボスはまたいつもの強引さで私の腕を掴みさっさとエレベーターホールの方へと歩き出した。
ちょ、ちょっと、柊二さんってば、みんなが見てるのにぃ……
「あ、あのぉ、ボス」
「いいから来い」
「あのでも、私はこれから学校が……」
「サボれ」
「ええっ?!」
そうやって、強制連行の犯人よろしく、ボスに連れて行かれた先は――。
この社屋の最上階フロア。
えっと、確か今日は新入社員の歓迎コンパが催されているはず。
エレベーターから一歩踏み出したそこは ――
まるで一流ホテルのパーティーラウンジみたいに華やかで、きらびやかにライトアップされていた。
場内はどこもかしこも着飾ったゲスト揃いで、そんな中、平服=おしゃれ心のカケラもないごく平凡なワンピ姿の私はただ1人とても浮いた存在だった。
文字通りの別世界。
そして、それを見た私の正直な第一印象は――
これが歓迎コンパ?! だった。
そう言えばプロ企のはるかさんが言ってたっけ――
”今年のやつは秘書課・営業・プロ企、三課合同でやるらしいからかなり盛大になるわよぉ” って。
「ううぅっ……酷いですぅ、柊二さん……」
「あ~?」
「こんな事なら前もって教えて下さい」
「言っておいたら何か変わったのか?」
「あ、えっと、もう少し、おしゃれして来るとか……」
「お前がせいぜい気張ったところで大した変わりはないさ、ガハハハ――」
そう事もなく笑い飛ばしたあと、私の耳元へ口を寄せ小声で囁く。
「スペシャルなお前はオレにだけ見せてればイイ」
キャッ――もう、柊二さんってば、カッコ良すぎ……。
「―― Yo柊二」
「おぉ、圭介、お前も来てたのか」
ボスの事を”柊二”と、下の名前で呼び捨てにした人物は、年の頃ならボスと同年代位、スラっと背が高くて、そのスタイルに仕立ての良い上品なスーツが似合いの男性。
ボスから”圭介”と、親し気に呼ばれたその男性はボスと挨拶代わりの軽いハグと握手を交わし、私を見た。
「――彼女がうわさの?」
「あぁ、米倉実咲だ――さき? オレの従兄弟で蛯沢圭介」
「初めまして、米倉です」
「竹内さんから話しには聞いていたけど、ホント可愛らしいって表現がしっくりくる子だね」
それって、私、子供っぽいって事?
「柊二にはもったいない――実咲さん? 柊二のお守りは骨が折れるでしょう」
その言い方があまりにも実感がこもっていて、私は思わずプッと小さく吹き出した。
「圭介、あまり余計な事は吹き込むなよ」
って、拗ねたように頬を赤らめたボスも何だかお茶目。
トゥルルル~~、ボスのスーツの内ポケットから優しいオルゴールの音色。
ボスは”ちょっと失礼”と、そのポケットから出した携帯電話の対応をしながら人気の少ない方へ行ってしまった。
で、しばし私は初対面の蛯沢さんと2人きりに。
こんな形で初対面の人と急に2人きりにされてしまうと、緊張で何を話したらいいか分からない。
そう、ボスと初めて食事した時のよう……。
すると意外なことに、気まずかったのは蛯沢さんも同じだったようで、急に思い出したようスーツの胸ポケットから取り出したカードホルダーから1枚の名刺を抜き取って私へ差し出した。
「申し遅れましたが、私こういう者です――」
その名刺に記載されている会社名と蛯沢さんの肩書(役職)を見た私は、思考が一瞬フリーズした。
?! へっ……エビスグループ??って、確か、日本の複合企業のリーディングカンパニーじゃなかった?
それに、この若さで本部長なんて……す、凄すぎる。
素直に驚いて、頭の中へ浮かんだ言葉をそのまま口に出してた。
「――凄っごぉい、本物のビジネスエリート……」
『クッ――クククク……っ』
私の庶民的つぶやきに、ちょっと恥ずかしそうに蛯沢さんは苦笑した。
「あっ、す、すみません、わたしったらつい……」
「いいや、いいんだよ。でも、そう凄くはないんだ。ほとんど家業のようなものだから」
「家業?」
「曽祖父が創業者で今現在の経営者は伯父なんだ」
へっ?! って事は……
「じゃ、その蛯沢さんと従兄弟って事はうちのボスって……」
「ああ、柊二の父親がエビスのトップだ」
ひぇ~~っ、知らなかったぁ……あの人ってそんなお坊ちゃんだったの!
「本来なら柊二が跡継ぎなんだが故あって10代の後半で実家から飛び出してしまってね、で、急遽私に白羽の矢が立てられたってわけ」
そこでボスが戻ってきて、蛯沢さんと私の話しは中断した。
「2人してなぁに熱心に話し込んでたんだぁ?」
?! ギクゥッ――
「なぁに、他愛もない世間話さ、あ、そうそう、チーズが結構旨いよって実咲さんへもお薦めしてたとこ。今日のパーティー、プロデュースは柊二が任されたんだって?」
「あぁ、まぁな」
へぇ、そうだったんだぁ。
「道理で、ワインとおつまみのセレクトがイイと思った」
「毎度ホテルのケータリングじゃ味気なさすぎるだろ」
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