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「――あ、明かりが点いてる」
柊二さん運転の車が最後の交差点の角を曲がって
しばらく走った所で、私のアパートが見えてくると、
私の部屋に明かりが点いてるのが見えた。
合鍵を渡しているのは親代わりの都村ご夫妻にだけだ。
「もしかしてご両親?」
「ええ、おそらくは」
「じゃ、一応ご挨拶しておいた方がいいかな」
私が” YES or NO ”の、返事をするより早く、
私の戸室から和服姿の義母・美月が出て来たのが見えた。
恐らく母も部屋の窓辺から、この車が停まったのを
見ていたんだ。
「もうっ、お母さん、上京するなら連絡ちょうだいよ。
真っ直ぐ帰ってきたのに」
「だって、ホントは日帰りの予定だったんですもの――」
と、言いつつ目顔で”ボスを紹介しろ”と、いう素振り。
「あ、こちら、私が今お世話になってる部署の上司で
氷室さん」
「初めまして、氷室と申します」
「こちらこそ初めまして、娘がお世話になってます。
ねぇ実咲、こんな所で立ち話も何だから上がって
頂いたら?」
「いえ、もう夜も遅いので今日はこれで失礼します」
「まぁ、そうですかぁ」
「じゃ、米倉、また明日」
「はい、おやすみなさい」
「では、お母様も御機嫌よう、失礼致します」
と、柊二さんは再び運転席へ乗り込んだ。
遠ざかってゆく柊二さんの車のテールランプが見えなく
なるまで見送って、義母は ”フフフ――”と何やら
意味あり気な含み笑いをもらした。
「なーによぉ」
「ひょっとしたらお母さん、とんでもないお邪魔虫だった
かな?って」
「や~だ、何それ。そんな事ないよ」
「氷室さんって、とっても感じのいい方ね」
「でしょ~う?けど顔だけじゃなくて、仕事もばっちり
出来る人なんだよ」
「そう……」
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