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フロアの壁時計が(午後)7時を知らせる。
実咲は最後の一行を文書に打ち込み終え、ふぅ~っと
息をついていつも柊二が使っている執務机に突っ伏した。
時計の針が8時半を過ぎた頃、
柊二はクライアントとの打ち合わせから戻った。
執務室に入ると実咲は机に突っ伏したまま居眠りしている。
竹内からおおかたの事情は聞いていたものの、
実際実物を間近で見て柊二は思わずゴクリと
生唾を呑み込んだ。
実咲が寝込んでしまって以来、実咲との接触を
竹内と主治医=円谷によってきつく禁じられ、
自宅へ帰る事すら出来なかった為こうして
実咲の顔を見るのは実に5日ぶりだった。
ブラウスの襟元から覗く首筋は熱でやつれたせいで
余計に細く見え。
まだ薄っすら残っているうなじのキスマークが
妙に生々しく感じられる。
「――おい、さき……さき?ただいま、ダ~リンの
お帰りだよ」
顔にかかってる後れ毛を撫で付けてやりながら
そのおでこへ口付けを落とす。
「う、う~~ン……」
実咲は軽く身じろぎしたものの、まだ夢の中。
「こんなとこで寝てるとまた熱がぶり返すぞ」
そうっと実咲をお姫様抱っこしてそのまま
ソファーへ深く腰掛けた。
「ん~~……ん?」
ぼんやり目を開いて柊二を認めると、
実咲は花の蕾がゆっくり開いていくよう
温かなほほ笑みを浮かべた。
「お帰りなさい、柊二さん」
「ただいま――今日、何か変わった事は?」
「ん、そう言われてみれば……今日は何となくみんな
様子がおかしかったわ、私が声をかける度にギクって
するし、何か今日1日みんなから避けられてたみたい……」
メンバー達の大変だった様を思い浮かべ柊二は苦笑する。
「そいつぁ難儀だったな、おそらく連中はお前のイメチェン
に付いていけなかったのさ」
「イメチェン?竹内さんからも言われたけど、私そんなに
変わった?」
「ああ、さっきお前の寝顔をみてがっつきそうになるのを
堪えるんが大変だった」
「やだ、柊二さんってば、露骨にエッチ」
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