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『俺、婚約することになってん』
おーくらがバツが悪そうに俺にそう言うたのは一週間前。
(何言うてんの、おーくら。今日は4月1日ちゃうよな)
『結婚しても、向こうと同居はせぇへん。俺はヤスと住む。だから今までと変わらんねん。大丈夫やねん』
おーくらは自分を納得させるみたいに「大丈夫や」って言う。何度も何度も。
それ、アカンやつやろ。
同居せぇへんかて、通うんやろ?子供も作らなあかんのやろ?両家の絆を固めんねんやろ?その為の結婚やん。
(ウソやって言うてくれよ、怒らへんからさ)
お前、優しいからそんな境遇の奥さん可哀想に思い始めるで。ほんで子供なんてできたらそっちが大事になんで。
変わらんワケないやろ。
それはお前が一番わかってるハズや。
『そぉかぁ』
俺が言える言葉はこれしかなかった。
そう返事をする瞬間に、俺はこの家から出てくことを決めた。おーくらのお荷物にはなられへん。
『ヤス、ごめん』
おーくらは強引に俺を抱き込んだ。
お願いやからそんな優しいきれーな目で泣かんといてよ。
俺、心が折れてまうよ、折角決心したんに。
(神様、いじわるしないで)
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