だから私は酒を呑む

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婚約者は俺が事前にやるべきことのチェックリストを置いて帰っていった。 悪い子ではない。綺麗やししっかりしてるし、俺なんかより彼女のほうがホンマの犠牲者やと思う、今回のTOBの。 何が悲しくて男の恋人がおる男と結婚すんねや。いや、「いた」の方が正しいか。 ヤスと会うまで、俺の見た目と将来性しか勘定に入れてへん女の子たちばかりと付き合ってた。彼氏の次は旦那、旦那の次は子供、子供の次は子供の学校、学校の次は就職先、就職先の次は子供の結婚相手、その次は孫……って、永遠に続く無限の自慢のループ。それもこれも“それを持っている私が凄いでしょ?”て言わんばかりの長い睫毛。その下で妙に乾いてぎらついた目が俺を萎えさせた。『イケてる女のツラすんなや』って彼女たちをベッドの上でオナニーの道具にしかせんかった俺は彼女たち以上に最低やったけど。 変わらない環境、変われない俺。 そんな中でヤスが唯一の救いやった。 ヤスのためならって、初めて仕事も頑張れた気ぃする。 ヤスだけやもん、ホンマに気持ちよくなってほしいって、相手のためのセックスができたんは。 そんなヤスに俺は最低の仕打ちをした。 亮ちゃんに言われんまでも、俺はホンマに許されへんと思う。 でも、俺かてどうしようもなかったんや。 夢を信じても、夢をあきらめなくても、夢は叶わないこともあんねん。 翼を広げても、大空なんて飛ばれへんねん。折れてんねん。 涙を拭いて桜の木の下でキセキのトビラ開けたかて、歩き出されへんわ。 もうひとりじゃないなんて、ひとりぼっちじゃ! 俺の抱えてる問題なんて、世の中からしちゃ些細な出来事に過ぎないけど。今日だけは許して。 他人を、呪うんを。 変えられない世界を、恨むんを。 俺が、凹むんを。 凹んで凹んで凹みつくせ。 酒に甘えて泣きつくせ。 俺の結婚前夜はドラ泣きどころの騒ぎやなかった。
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