知らない女

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焦ったヨコの激走も空しく、式までには結構余裕があって、ウェルカムドリンクなんちゅうこっぱずかしいもんを三十路のオッチャン二人で呑みながらの近況報告。 「試験受けてからこっち来てん」 「そうやったんや。二級建築士やったっけ?」 「テキトー過ぎるやろ。公認会計士や」 受付には、お前それただの寄せ書きやんけっちゅうウェルカムボードと、新婦のオカンが縫ったっていうハワイのナントカって布。それからDIY感溢れまくってるクマのぬいぐるみ(ご丁寧に礼服着用済)二体が記念写真を持たされとる。作り笑いの大倉の隣には知らない女。 「ヨコ、新婦知っとる?」 「確か顧問の姪っ子やろ?その顧問が大倉のオトンの仲人で、前にいてた会社の最初の上司だったと思うで。さすがに断れないんちゃう?」 「ほぉーん」 「すばる来ない思てたわ。俺はアシ代出るし、弟たちにも会って帰ろうかなって思て来たんやけど」 「打算的やなぁ~」 「ここの肉、めっちゃウマいらしい」 「あ、そう言う…」 「なんやねん」 「嫁に土産買って帰れよ」 「わーってるわ」 ヨコの顔がまた赤くなったところで、とうとう式が始まるらしく礼服のスタッフ達がいそいそと呼び立て始めた。 「行こか」 颯爽と立ち上がるヨコ。 俺は色白の同期にちょらちょら付いていくだけ。
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