笑ってる場合ですよ

知らない女

チャペルに誘導された俺たちは、紙切れ渡されて聖歌の斉唱を強制された。俺、クリスチャンちゃうから歌われへんぞ。

隣の公認会計士目指してる白い子は、カタカナに関して頭が弱いから、

「あべ、まりあ、ぐらてぃあー、ぷれなー」

て、ホンマにカワイソウ。
やめてあげて。

そんな中、花嫁を待つ白いタキシード着た大倉は、まぁ、顔がむくみまくりで酷い仕上がり。アイツ夜通し酒呑んで泣いたな。
俺の隣を横切る白いベールに包まれた知らない女。今思ったけど、ヴァージンロード歩く女の何割が処女なんやろな。あと、ここにおる何人がキリスト教信者なんやろ。かけてもええけど一人もおらんと思う。そこに突っ立てるいかがわしい外人も神父か牧師か知らんけど、ほんまもんか怪しいし。

「誓います」

あーあー。誓ってもうた。
どこの馬の骨かわからん外人の前で書類上の永遠の愛を。
次は指輪の交換か。うわ、なんじゃその指輪置くクッションみたいなん？盛りすぎやろ、色んなもん。指輪置くスペースないやんけ！

「りんぐぴろー言うて、最近は新婦の友達が作るん流行ってるらしいで」

「なんで知ってるん、ヨコ。女子か」

大倉が新婦の指に指輪をはめた後、新婦が大倉の指に指輪を通そうとしてるけど、なかなか進まへん。もしかしてアイツ、昨日酒飲み過ぎで指までむくんでんちゃうか。ないわー。指にどうしてもおさまらんくて、第一関節で止まってんのを俺は見逃さなかったで。

「キスはゆっくり3秒らしい」

「お前なんでそんな詳しいねん」

『雑誌で見た』って言うヨコになんでそんな雑誌読んでんねんっちゅうツッコミも面倒で黙ってた。ゆっくり３秒。

なんで他人のキスを見せつけられなあかんのか。ほんでなんで回りの奴らは写真に撮ろうと思うのか。俺は全っ然理解できんまんま、知らん女を連れて会場を出ていく大倉に、くったくたの花びらを思いっきりぶつけたった。