耳ヲ貸スベキ

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* 章ちゃんと俺が会ったのは、俺が社会人になってすぐ。 時間が経つのが早すぎて、ホンマに泣きそうや。 俺は駆け出しの新人営業マンで、章ちゃんは専門出たばっかの新人クリエイターやった。きっかけはなんやったっけ。なんかのコンペか入札やったな。 章ちゃんは会った時から優しくて、気ぃ使いで、仕事でもプライベートでも何かと俺を助けてくれた。 20代前半の当時に思い描いてたキラキラの未来は予想以上にドロドロやって、都合の良い妄想は気持ちええぐらいに裏切られてきた。一緒におった内が今ここにおらんなんて、あの頃は想像もしてへんかったし。 あの研修の後、どうにかこぎつけて内に一回だけ会ったけど、向こうは向こうで充実した毎日を送ってるみたいで、俺なんかが割り込む隙間はないみたいやった。 そんなことを酒の席で章ちゃんに愚痴ったら、 『フラれたからって落ち込まんといてぇやぁ』 なんて笑うから 『フラれてへんし!てか、告ってへんし!!』 て言いながら、俺は章ちゃんの笑顔で今まで以上に気持ちが清々しくなったのを覚えてる。 今回のことは、もちろん大倉が悪いんやない。腐った企業と腐った行政と、誰かの尻馬に乗ったオトナのカネ絡みの陰謀が、弱い奴から全てを奪ってリスクを擦り付けてるだけ。 だけど、世界はそんなに単純じゃないって、俺は信じたい。 お前の人生はもっと気高くてええはずやん。最後の奇跡を始めてくれよ。俺はお前の門出を全力で祝いたいんや。
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