耳ヲ貸スベキ

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* 「いらっしゃいませぇ~、お好きな席…」 カフェでテキパキ接客してた章ちゃんは、俺と目が合うと疲れ切った笑顔を見せた。俺を席に誘導してから奥で責任者に確認とったんか、俺にはバナナジュース、自分はアサイーだかなんだかわからん女子力高いもんを持ってきて俺の前に座って重たい口を開いた。 「亮はさ、楽なゴールがなくても、生きてけるタイプやもんな。俺はムリやわぁ」 楽なゴールなんて、誰にもないやろ。 「そんなんちゃうよ。生きてくのにドラマみたいな最終回はないから。気ぃ抜くとコースから外れんねん。脱落したないから、てめぇでなんとかしてるだけやんか」 「脱落しても俺はええねん。誰も苦しまんなら」 章ちゃんは優しい。それは、章ちゃんが強いから。 「マルを責めんといてな。俺のこと思ってわざとなんもしてへんねんから」 受けた傷はかなり深いやろ、大倉よりも。俺よりも、もしかしたらむあかみ君よりも強いから、誰にでも平等に優しくできる。 「大倉やめて、俺にせぇ」 「…え?」 章ちゃんの大きい目が揺れる。俺の傲慢さを見透かすみたいな透明な色で。たぶん、俺の目も同じぐらい揺れてるんやと思う。 「…なんて、少女漫画みたいな台詞、俺は言わへんで!」 「アハハ、ナニソレ!」 「決めんのはお前や。選ぶんもお前や。考えんのも、泣くのんも、笑うのんも、全部お前や!」 「亮」 「これ式場。ゆーとくけど、俺は行かんで。誰がこんな結婚祝うっちゅうねん!」 地図をテーブルに置いて、俺は店を出た。ずんずん駅に向かって歩いてって、コインロッカーに預けてた荷物を取り出して、耳障りな雑踏を掻き消すためにヘッドフォンを耳にかける。 まるで何もなかったみたいに大倉と章ちゃんが笑ってる、いつも通りの憂鬱な月曜日がやってくるのを期待して。 ハイハット、スネアにキック。イナタいビートとギターリフの間に“ありがとう”って言う章ちゃんの声が聞こえた気がした。
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