知らない男

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宴もたけなわになってきた結婚式。 ホンマはビールでも注ぎに行って大倉を祝うべきなんやろけど、心から祝われへん俺たちはひたすら豪華な料理を食い続ける。 「うんまあ!」 俺の食い意地をバカにしてたすばるやけど、余興も無視してお前のほうがガチ食いやんけ。 祝辞、ケーキ入刀、ファーストバイト…と続いて花嫁はお色直しに席を立つ。 このタイミングで新郎新婦の馴れ初めスライドショーが流れ始めた。突貫工事にも程がある薄い内容と、大倉の覇気のない顔を眺めながらチェイサーを口に含む。あんまりにもおもんないので、赤ワインを呷る隣の小さいオッサンにちょっと話しかけてみた。 「すばる、マルとはどうするん」 すばるは眉間に深いしわを寄せて少し考えてからゆっくり答えた。 「…どうもせぇへんよ。今のまんま。お前らみたいに腹括る気ないで」 「別に腹括ったワケちゃうわ。どっちかになんかあった時、“他人”やと面倒やろ」 「紙切れ一枚で縛られたないわ」 カッコええこと言うてるけど、たぶん、すばるは縛られたくないんやなくて、マルを縛りたくないんやと思う。 「なんかあったら、そん時考える」 「それもそうやな」 もし、すばるとマルになんかあったとしても、俺かヒナがなんとかしてしまいそうな気がしてんねんけど、正直。 うすら寒い後輩の余興が終わったところで、お色直しが終わった新婦がやおら再登場。あ、これは花嫁から両親への手紙のターンやな、一番泣かせることろやんって思てたんやけど、手紙は泣いてまうからって理由でマイクを握りしめた新婦は、あろうことかカラオケを歌いだした。曲は「CAN YOU CELEBRATE?」。口にフィレ肉突っ込んでた俺とすばるは、顔見合わせて思わず声に出した。 「No,I Can't !」
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