知らない男

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ホンマに『間違えだらけの道順』やで、なんてツッコミながらも曲は終盤に。感極まってはるのは本人だけらしく、会場全員がスポットライトを浴びる歌姫をぼんやり見守っていた時やった。 「No,I Can't !!!!!」 会場の出入口を開け放って俺たちと同じツッコミをしたのは、俺とすばると新郎以外は誰も「知らない男」。 小柄なソイツは、押さえようとするスタッフを押しのけて上座へどんどん進んでく。 「おーくらぁ、やっぱり俺、嫌や。お前が誰 かと結婚すんの、嫌や。生まれてから今日まで、お前と一緒におった時間が、俺、一番笑ってた。もっと欲出せって、前言うてくれたよな。だから、ホンマに嫌なことは嫌やって、言うわ。ホンマに好きなヤツを好きな気持ちは、名前呼ぶことにした」 立ち上がった新郎は、むくんだ顔に涙まで流して男前の顔がもうムチャクチャ。 「おーくらぁ。俺と結婚してください!」 「する!するよ!俺、ヤスと結婚するっ!!」 マイクを握った新婦を無視してフラフラと小柄な男のそばに近づいた大倉は泣き崩れた。小さな男は大きな男の震える背中を優しく包み込んで涙を拭いてやってる。立ち上がった二人は見つめ合って馬鹿みたいに大笑い。お互いの手を強く握ってそのまま会場を走り去っていった。 「♪I CAN CELEBRATE……」 主役の片方がおらんくなった会場で、歌うのをやめた花嫁の代わりにすばるの美声が静まり返った会場に響いた。
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