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弟たちへの挨拶もそこそこに、俺はバスターミナルへ急いだ。
待合室で文庫本読んでるヒナを見付けて、無駄なく整った体躯をついつい近くのヤツらと比べてまうけど、軽く頭3つくらい抜きん出てカッコええ。ええやろ、俺はコイツとチュッチュモゾモゾしてんねやで(笑)。そんな俺の視線に気が付ついたんか、ヒナは俺に目線をとめるとふにゃあ、て笑ろてヒラヒラ手を振った。
「待たせた」
「ううん。かまへん。もう乗れんで」
高速バスとは言え、二人掛けに大の男2人が座れば、そりゃ体が密着する。車体が揺れる度に肩と肩が触れ合うとヒナはなんだか嬉しそうに笑う。俺が参考書を開いて読みだすと、ヒナもさっきの文庫本を取り出した。
「何読んでんの」
「時代小説」
「珍しいやん、おたくが小説読むん」
「侍になりたいなぁって」
「お前ならなれんとちゃう?」
「せやろ!いけるやろ!!」
「何をそんな目ぇキラキラさせとんねん」
一通りのラリーを終えてしばらく黙ってると、ヒナの手から侍指南書が派手に転がり落ちた。思てたけどやっぱり寝た。寝るんわかってんのにカッコつけて本なんて読むなや。
落ちたもんを拾ってセカンドバックに押し込んで、ずり落ちた裏っ返しのジャケットを肩にかけてやった。
相変わらずの不用心な寝顔は、いつも俺を黙らせる。
先に謝っとくで、ヒナ。
「ごめんな」
バスがトンネルに入るのを見計らって、タバコのにおいが残る唇に自分の厚ぼったい唇を押し当てた。
俺達の人生は全然序盤戦。この先何があるのかも全然わからん。
それに、今までお前に見せた俺は、俺のほんの一部に過ぎひん。 お前の「知らない男」がまだここにおんねや。
たぶん、お前が思てるより、俺のほうがお前より凶暴で、お前よりも優しい。
つまりな、俺はまだまだこんなもんやないで。覚悟しとけ。
どう?惚れるやろ(笑)
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