逃走のファンク

2/3

79人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「やすぅ、怖い、怖い…」 「大丈夫やって。手、握ってるやんかぁ」 俺は飛行機が嫌いや。そんな俺が意を決して搭乗してんのは、ヤスとの愛の逃避行のため。これから二人でイギリスに行く。なんでイギリスかって、それはヤスが決めた。『オスカー・ワイルドの国やで』なんてテンション上がってたけど、俺にはようわからん。 同性で籍入れられる国はヨーロッパは意外と多いけど、アメリカなんかは逆にゲイフォビアが多くて危ないかもなんて話で、『怖いところはイヤや』なんて言うてたら、イギリスのゲイタウンにヤスの知り合いがおるから、とりあえずはそこに厄介になることになった。 あの日、式場から逃げる前にヤスは 『誕生日も記念日も忘れてくれて、かまへんねん。ほんまに。ほんまやで。でも、ずっと俺の隣で笑っててほしい』 なんて、真っ直ぐな目でめっちゃ男らしさを見せつけるから、俺は大笑いして二つ返事したんや。 コイツがいなければ俺はないって。 あの日に文字通り全てを捨ててしまった俺は、なんだか妙にスッキリしてしまった。もう、「あーしろこーしろ」言うて弱い奴を裁きたがる輩はもうおらん。腐った部分だけは一丁前に大企業やった俺の会社は、俺がいなくなった瞬間に次の犠牲者を掘り起こしてた。№1且つOnly1やって上昇志向の親に育てられてきたけど、使い物にならんって判断された俺は、ただのone of themだったわけ。 お前重婚やんけってつっこむ人に弁解しとくけど、式は決行したものの、実は籍は入れてなかってん。なんでかって言うと、元婚約者が入籍日にこだわってたから。なんか、どうしてもクリスマスイブを結婚記念日にしたかったらしくて、式は先に上げて籍は後って状態になってた。おかげで助かったけど。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加