ライカライカ

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大倉は缶コーヒー、俺は奢ってもらった炭酸飲料を飲みながら俺たち以外誰もいないオフィスで駄話しつつ、ただただ交通費の精算をしたり、許可申請にメクラ印を押したり、あまり頭を使わない仕事を続ける。 「めっちゃビックリしたわぁ、よかあま君とむあかみ君がケッコンするなんて。大倉は聞いてたん?」 「全然。横山君が辞めた途端に信ちゃんの名字が横山になったから、ヤラレタ感めっちゃあったわ」 「よかーま君、実は人気あったから、辞める前に女子にかなり言い寄られてたみたいやで?けど、“資格取るのに集中したいから今は”とかモットモらしいこと言うて断ってんの俺見てしまってん!実は本命とちゃっかり籍入れてたっちゅう…悪いオトコや!」 「アッハッハ!女子の引き方半端なかったよなぁ!」 「むあかみ君も旧姓で仕事続けても全然ダイジョブなんに、て言うか寧ろ変えんほうが業務上ええのにわざわざ変えて、丁寧にメール送ってくるし」 「(旧姓:村上)やろ?あれめっちゃ笑ったわ~。フォルダ分けて保存してもうた!」 ゲラゲラ笑う大倉。俺は今なら平気かなって、本当に話したかったことを聞いてみる。 「大倉、あの噂ホンマなん?」 「ウチの会社がTOBかけられてること?」 大倉は俺に視線を合わせんと、電源を切ったPCをパタッと閉じた。 「お前の婚約や」 大倉は視線を落として静かに答えた。 「___ホンマやで」 「章ちゃんはどうなんねん」 「俺とヤスは変わらん。今のまんまや。そういう条件で婚約した」 「変わらんワケないやろっ!なんで章ちゃん愛人みたいな扱いすんねん!俺許さへんぞっ」 俺が空のペットボトルを床に叩きつけると、大倉も立ち上がって俺を睨みつけた。 「ほんなら何が正解なん?俺が婚約したん、顧問の姪御やねん。TOBかけてきてる会社の子ぉや。……俺は亮ちゃんや信ちゃんや、他にも大勢おる社員支えなあかんねん。会社潰されへんねん。俺の好き嫌いで物事図れる立場ちゃうねん。なぁ、亮ちゃん教えてよ、何が正解なん?俺かてヤスと一緒におりたいよ…」 はらはら涙を流す大倉に、俺は何も言えずに立ちすくんでしまった。大倉、お前そんなとこオヤジさんに似んでもええんやで?
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