渋谷漂流記

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東京、渋谷。 Tシャツのデザインをお手伝いしたLGBTのイベントの主催者に、出て来られへんかぁ、言われて出てきた。 「アダムとイブがアダムとボブでもええやんけ」 なんて笑ってたけど、民族、国家、主義、主張、宗派。全てに対して俺はケンカ売ってるみたいなもんやった。こんなたくさんの性的マイノリティの人たちが、どんだけの辛い環境の中で日々戦ってんのか、俺には全く想像できひん。 「好きになったのがたまたま男でした」 だけでは通用せんのはわかってる。わかってるつもりやった。わかるのは、このたくさんの人たちの中で自分が一番不幸なんちゃうかと思ってしまう俺が、一番アホやってこと。 宇田川、道玄坂、宮益坂、スペイン坂下、公園通り、桜ヶ丘。 街に彷徨う、漂う、人に酔う、音に酔う、己に酔う。 なんでこう世間は世知辛いんやろう。 足りんかったんは努力なのか運なのか。 甘い夢を膨らませてたら結果このザマ。 もうツブシのきかんトシや、目ぇ覚ませ、俺。悪夢なら自分で終わらすんや。 (初めて会うたん、この町やったな) なんでやろ、涙が止まらへん。 「ヤ、ヤス、か?」 挙動不審気味に俺に声をかけてきたのは、坊主頭でヒゲボーボーのオッチャン。 「あれ?ヤスやん。えらい大荷物やん、どしたん?」 オッチャンの後ろからマルがひょこっと顔を出した。てことはこの人、しぶやん!見た目変わり過ぎやろ! 口をぱくぱくしてる俺の肩をすっと抱いたしぶやんは「お前はなんにも悪くない」て言うてくれた。 その言葉聞いて、俺はまた涙が止まらんくなってしまった。 マルが「なに?なに?」って不思議そうな顔すんのを見て、しぶやんは「目でわかるやろ」ってマルに言うた。 「ヤス、今日泊まり」 俺は声にならない声で優しい笑顔のマルと男前過ぎるしぶやんにお礼を言うた。
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