トナカイ、サンタに拾われる。

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「俺が拾ってあげましょうか?」 「へ……」 急に頭上から降って来た低い声。 少しだけ腕をずらして様子を窺えば、そこには丈の長い黒いコートを羽織ったスーツ姿の男が立っていた。 涙で目がかすみ、顔がよく見えない。 「俺が、心から想い合える相手になってあげます」 アルコールで頭がぼんやりする。 誰なの?あなたは……。 普通なら警戒してもおかしくないのに。 不思議。 怖いとも、逃げたいとも思わない。 むしろ……。 「……拾って」 あなたになら、拾われてみたい。 そう思った。 「随分素直ですね」 クスクスと笑う男が、私を抱き上げる。 石けんのような甘い香りが鼻孔をくすぐる。 なんだろ、根拠はないけど……。 初めて会った気がしない。 そう思えるくらい安心感がある。 思わず抱き着いて首元に顔を埋めれば。 「……もう、我慢できませんからね」 「っ……」 掠れた甘い声と共に、私の唇が強く塞がれた。
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