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「晴己さん。」
駅前にあるカフェの、通りに面した窓側のカウンター席。
そこに座っていた見覚えのある背中に声をかけると、その人はチラリと一瞬だけ隣に立った俺を視界に映して、笑った。
「本当にいつでも来んのな、お前。」
それは苦笑いともいえるような、なんとも乾いた笑いというか。
『バカじゃないのか』そう言われているような気分になる。
きっとこの人のことだから、本当に思っていそうだ。
でも、俺がここに来ているのは、この人___晴己さんに呼ばれたから。
“来て"
たったその2文字の言葉に、呼ばれたからだ。
「来ますよ。約束は守ります。」
「はは、学生が暇人気取りかよ。」
また、その乾いた笑みを浮かべた晴己さんは、コーヒーを一口飲むと、頬杖をついて窓の外を眺め続ける。
こうして会って暫くは、晴己さんは俺を視界に入れようとはしない。
さっきみたいに、横目で俺が来たのを確認したあとは、絶対に。
「ねぇ、磯外。」
「なんですか?」
そして、次に俺を視界に入れるのは、
「抱いて。」
そうやって、俺を誘うときだ。
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