言葉もいらないほどの、

4/41
前へ
/41ページ
次へ
「…………ん?あれ……寝てた。」 「(…………起きた。)」 暫くして、その客は体を起こした。 どうやら眠ってしまっていたらしい。 起き上がって見えた顔が、寝起きの顔をしていた。 そして、息を飲んだ。 男でここまで綺麗な顔の人、いるんだ。 「…………なに。」 カウンターに頬杖をついて、飲みかけのカクテルに視線を落としながら、その人は言う。 ……独り言、だろうか。 「ねぇ、右の席のお前に言ってんだけど。」 「…………え。」 驚いた。 さっきまでカクテルを見ていたその目と俺の目が合った。 独り言だと思ったその言葉は、どうやら俺に向けられていたらしい。 そして、横顔ではわからなかったけど、正面で見えたその人の目は、微かに赤かった。 ___ドキ。 ……あれ、なに、今の。 「なに、俺に何かついてる?」 「……い、いえ。す、すみません。」 俺は慌てて目を逸らして、自分のグラスに視線を落とす。 胸の奥が、訳がわからないほどざわついている。 「……1人?」 でも再び、その声に俺は視線だけを左に向けた。 俺に言ってるのか? その人の目はもう俺を映していなく、頬杖をついたままカウンターの奥を見つめている。 思わず見とれてしまった。 「だから右の席のお前に言ってんだけど。」 「……あ、は、はい。1人です。」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加